特集にあたって 特集にあたって 古川力丸(弘仁会板倉病院 救急診療部 部長) ICUでは多くの医療機器が使用され,それぞれがとても奥深いものになっています.各医療機器について詳しく解説しようと思ったら,それぞれが1冊の分厚い本になってしまうほど難しく,また新しい医療機器がどんどんと開発されているため永遠に続く修行となってしまいます.そこで,今回の特集では,ICUで頻用される医療機器について,その「使いどころ」や,「使い方のコツ」を各機器のスペシャリストの方々に概説いただくこととしました.また,『細かいところまで学習している暇がない!』『機械オンチなので困ったときの対応だけ教えてほしい!』という方々に向けて,アラーム発生時の対応についてもわかりやすくまとめてもらいました.以下,本特集の内容とポイントをご紹介します. 1総論(pp1645-1647,pp1648-1652) すべての医療機器には,利点と欠点があり,医療機器の使用に伴うリスクが存在します.また,機械に慣れていないと,本来は1つの治療手段である医療機器(の使用)をまるでそれが目的のごとく扱ってしまう傾向にあります.医療機器のエキスパートは,医療機器を使用しないケアプランについても精通している必要があることは理解しておきましょう. アラームが多すぎて,アラーム対応に疲弊してしまうことは現場スタッフであれば誰もが経験していることでしょう.アラームを鳴りやすくした方が異常の検出がしやすいけれども,その分不要なアラームが増えてしまい本当に重要なときのアラーム対応が遅れてしまう…というジレンマがあります. 2各論 1) 人工呼吸器(pp1653-1662,pp1663-1672) 人工呼吸器については,まずしっかりと基本事項(人工呼吸の目的,適応,初期設定とその後の調節)を押さえることが重要です.アラーム対応については,きちんとしたアラーム設定をすることからはじめましょう.予想される患者さんの病状変化(良くなる,悪くなる)と人工呼吸中の代表的な合併症を念頭に,早期発見できるようにアラーム設定を行います.人工呼吸器グラフィックについては,① 病態変化としてのコンプライアンス・レジスタンスの変化を把握する,② 見つけるべき重要なグラフィック異常に焦点を当てて見つける,というスタンスが重要です. 2) 患者監視モニター ICUで頻用される患者監視モニター(生体情報モニター)として,モニター心電図,パルスオキシメーター,非観血的血圧測定について,その道のエキスパートの方々に執筆をお願いしました. モニター心電図の判読は初学者には難解に感じてしまうかもしれませんが,モニター心電図で見つけるべき不整脈にターゲットを絞るとわかりやすいものです.今回の特集では,モニター心電図が苦手な初学者が,ドクターコール,上級医コールをすべき波形を中心に説明させていただきます(pp1673-1677,pp1678-1685). パルスオキシメータはきわめてありふれた医療機器であり,多くの方がすでに使いこなせていることでしょう.パルスオキシメータに関しては,ピットフォール,機能限界などを中心に押さえておくとよいです(pp1686-1692). 血圧モニタリングも重症患者では必須のモニタリング項目になります.どんな合併症を懸念して,血圧をモニタリングするのか,アラームの規定値を超えた場合に,どんな対応をとる予定なのかを事前に考えておくことが重要です(pp1693-1698). 3) 循環モニタリング(pp1699-1707) 肺動脈カテーテル(Swan-Ganzカテーテル)を筆頭とした循環動態のモニタリングについて,循環管理の入門編としてあげています.医療技術とITの向上により,今後もさまざまな循環モニタリングが出てくることが予想されます.何のために循環をモニタリングするのか,その基本原則についてしっかりと押さえておきましょう. 4) 体外循環管理とそのモニタリング(pp1708-1714) PCPS(percutaneous cardiopulmonary support:経皮的心肺補助)と呼ばれることも多いV-A ECMO(extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺),それからCOVID-19対策でも日の目を浴びた呼吸補助のためのECMO(V-V ECMO)について,そのモニタリングを中心に記載してもらいました.体外循環管理で重要なことは,機器での補助により循環動態がどのように変化しているのかを把握することです.脳血流,全身臓器血流を維持するために,最も重要なモニタリング項目をしっかりと押さえておきましょう. 5) 持続血液浄化療法とそのモニタリング(pp1715-1722) 血液浄化療法装置のアラームはもちろん,持続血液浄化療法中の重症患者さんのモニタリング全般について,しっかりと押さえておきましょう. この特集を通読すると,すべてのICU医療機器が使いこなせる…などということはありませんが,いままでよりもちょっとだけ身近に感じられるようになるのではないかと思います.まずは,受け持った患者さんの医療機器からでも構いません.ぜひ気軽に読み進めてみてください. 著者プロフィール 古川力丸 Rikimaru Kogawa弘仁会板倉病院 救急診療部 部長