特集にあたって 特集にあたって〜血液ガス分析を身につけ,病態生理を理解しよう 北村浩一(東京ベイ・浦安市川医療センター 腎臓・内分泌・糖尿病内科) 今回の特集テーマは,「血液ガス分析の考え方を無理なく身につけること」です. ここ10年ほどで血液ガス分析に関する書籍は多数出版されてきました.私自身も複数の本を読みましたが,それぞれの本に特徴があり勉強になりました.レジデントノートでもこれまで2回特集が組まれています(興味ある方は2012年7月号,2018年7月号を参照).それぞれの特集ごとに内容はバラエティに富んでいますが,本質は同じです. 今回の特集では「血液ガスでできること」の全体像を最初に理解し,その後の症例問題を通して根底にある病態生理を考える力が自然と身につくように構成しました.血液ガス分析は非常に有用なツールであり,すべての医師に利用してほしい検査だと考えます. ● 本特集の狙い 本特集で想定される読者は患者さんに接する機会のあるすべての臨床医です.各自の血液ガス分析の背景知識は問いません.本特集を読み切ることで,日常業務で当たり前に血液ガス分析を使いこなすことができるようになることを目標にしています. 血液ガス分析を行う際,私は以下の順序で考えていきます. ① 血液ガスを行おうと臨床状況(病歴と身体診察)から決断する. ② 血液ガスを実際にとる. ③ 結果を得る. ④ 結果をstepで解釈する. ⑤ 複数の酸塩基平衡異常があれば,おのおのを独立したものとして個別に解釈する. ⑥ 最終的に想定される原因を患者の臨床状況に照らし合わせて矛盾がないか確認する. ⑦ 矛盾がなければ原因にあわせた追加検査や治療を行う. ⑧ 血液ガスを再検して解釈が正しかったと確認する. 経験する症例が増えると,①のときに血液ガス分析の結果を予測できるようになります.血液ガス分析を真に理解するには,無意識にくり返してできるようになるまで順序だててやり続けることが必要です.今回の特集ではこの順序で症例を考えます.まさしくドリル(訓練,演習)にする価値の高いテーマだと思います. 最初に基本編として,いくつかの原則を理解していただきます.最低限知っておくべき酸塩基平衡の知識(pp430〜444),どんなときに血液ガスをとるのか(検査の適応,pp445〜450),そして血液ガス分析のデータの型にはまった読み方(解釈,pp451〜460)についてです.酸塩基平衡の一般論は膨大なので,特に臨床で使用する知識のみを記載しました.また,一般的に検査を行う際に考えることは,まず,どのタイミングで行うのか? だと思います.この質問に対しての言語化を意識して回答しました.また静脈血液ガスに関しても記載しています.さらに血液ガスの解釈に関しては,代償の式の計算で何度も教科書を見直すことがないようにするために日常診療に役立つ知識を記載しました. 次に実践編として4つの代表的な酸塩基平衡異常(代謝性アシドーシス,代謝性アルカローシス,呼吸性アシドーシス,呼吸性アルカローシス)に関して症例問題を用意しました(pp461〜510).いずれの酸塩基平衡異常もあくまでも現象であり,その背景にある原因疾患を同定するまでが必要になるため,プロセスを記載しました.基本編の知識を用いながら回答していくことで周辺の知識も身につくことでしょう.血液ガスの解釈時のステップなど,項目によって多少異なるところもありますが,基本の考え方は同じです. 本特集を読み切ることで,血液ガス分析を日常診療に活用し,「血液ガス分析のおかげであのときは助けられた」という思いをしていただけることが最大の喜びです. なお,本特集は日常診療で行う範囲内での血液ガス分析の内容に重きをおくPhysiological approach1)に関して主に記載しており,他の解析法であるBase Excess法やスチュワート法に興味がある方は他書をご覧ください. 今回の特集の機会をいただいた羊土社の皆様,特集に関して助言をいただいた鈴木利彦先生,COVID-19の対応に追われつつ臨床の最前線で戦っておられるなか,快く執筆いただいた先生方,また,いつも応援してくれている家族に感謝申し上げます. 文献 Berend K, et al:Physiological approach to assessment of acid-base disturbances. N Engl J Med, 371:1434-1445, 2014(PMID:25295502) 著者プロフィール 北村浩一(Koichi Kitamura)東京ベイ・浦安市川医療センター 腎臓・内分泌・糖尿病内科