特集にあたって めまい診療は診断エラーが起きやすい! 坂本 壮(総合病院国保旭中央病院 救急救命科) はじめに 皆さん,救急外来診療には慣れてきたでしょうか.診療科にとらわれない老若男女の多彩な訴えに適切に対応するのはたいへんですよね.軽症だと思った患者さんが実は…,帰宅の判断をしたものの…,そんな経験は誰にもあるはずです. 救急外来でエラーを起こさないために大切なこととして,私は表の5つのことを意識しています1)(レジデントノート2019年10月号『救急でのエラー なぜ起きる? どう防ぐ?』で特集しているのでどうぞ). 今回の特集のテーマである“めまい”は,救急外来で診断エラーが比較的多い症候であり,研修医が苦手な症候でもあります. 1自分の状況を理解したうえで診療に臨むべし! “めまい”は,診断エラーが多いことが報告されています2).皆さんも末梢性めまいだと思ったら脳梗塞,消化管出血,薬剤性,などなど,そんな経験ありますよね. “めまい”は,とにかく苦手な人が多いはずです.研修医対象のレクチャーの依頼を受け,希望の症候を確認すると“めまい”のリクエストがたくさん…そう,みんなが苦手で困っているのです.自分だけと落ち込むことなく,これを機にアプローチを習得しましょう. まずは,“めまい”はエラーが多い症候であることを認識し対応しましょうね.具体的なアプローチ方法は「救急外来におけるめまいのアプローチ」(p.1102〜)を参照してください. 2Hi-Phy-Viを重要視した検査のオーダーを! 遙か昔,この世には“めまい点滴”なるものが存在した(らしい).めまい患者にはまずアデノシン三リン酸(アデホス®),炭酸水素ナトリウム(メイロン®),ヒドロキシジン(アタラックス®-P)を混注した点滴を投与,嘔気・嘔吐がある場合にはメトクロプラミド(プリンペラン®)の静注.それで症状が改善しない場合には頭部CT,そしてMRI…嘘か誠か…. このアプローチがNGであることはわかると思いますが,なんとなくそれに似たようなことをやっていませんか? とりあえず頭部CT,といった対応をしていないでしょうか. 皆さんが働く救急外来では,検査へのアクセスはよいと思いますが,検査結果を正しく解釈するためには,Hi-Phy-Vi=病歴聴取(history),身体診察(physical),バイタルサイン(vital signs)から的確な検査前確率を見積もることが重要です.頭部CT,MRI陰性は中枢性めまいの否定に絶対的なものではありませんよね. めまいの原因疾患の代表であるBPPV,中枢性めまいの代表である脳梗塞の理解すべき点は城倉先生,杉田先生の稿〔「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」(p.1109〜),「脳梗塞」(p.1131〜)〕をじっくり読み込んでください. 3自身ですべて解決しようとせず,適切なタイミングで相談を! めまいが持続性の場合には,急性前庭症候群の鑑別としてHINTSの3項目を確認するわけですが,わかっちゃいてもなかなか難しい….これが現実ですよね.HINTSを精度高く評価することができれば,MRIよりも脳梗塞に対する感度が高いと報告されているものの,それはきちんと評価できてのことです〔HINTSに関しては藤原先生の稿「前庭神経炎」(p.1121〜)を参照〕. 頭部CTでめまいの原因が判明することは稀です.しかし多くのめまいを訴える患者さんに頭部CTが施行されています.なぜでしょうか.撮影できる環境だから…それも一理ありますが,それでは撮影できなかったらどうしますか? もしもCTがなかったら,もしもCTが故障していたら,もしも患者さんが妊婦だったら…病院ごとにコンサルトの基準は異なるかもしれませんが,検査を行うべきか否か迷ったら指導医や先輩に相談するとよいでしょう.研修医の特権を存分に利用しましょう.私くらいのオジさんになると,相談するのに躊躇しがちですが,例え相手が後輩であっても,患者さんを救うという目的を見失うことなく相談するようにしています. 4最終的な判断の前に一度振り返るべし! めまいの原因が1つとは限りません.頻度の高いBPPVは,Meniere病や前庭神経炎,頭部外傷によるめまいに合併することもあります.BPPVらしい病歴だけれども起立性低血圧らしい所見もある,片頭痛既往のある患者さんのくり返すめまいで前庭性片頭痛らしいが…,このような場合には,「そんなこともあるのだろう」と矛盾点を軽視するのではなく,再考するようにしましょう.高齢者では薬剤の影響も考える必要があり,最近降圧薬を追加された患者さんがBPPVを起こした,片頭痛に対してNSAIDsを多用していて消化性潰瘍により出血した…こんなこともあります.「こんなこともある」と言い出すとどんなことでもあるため,典型例では過度に考える必要はありませんが,見合わない所見がある場合には要注意です.前庭性片頭痛は松原先生の稿〔「前庭性片頭痛」(p.1142〜)〕を,起立性低血圧は原田先生の稿〔「起立性低血圧」(p.1149〜)〕を,そして薬剤性に関しては鶴山先生・吉田先生の稿〔「薬剤性めまい」(p.1159〜)〕を熟読してください. 5病状説明は具体的にわかりやすく! 「恐いめまいは否定的です」,そんな説明をしてその場を凌いではいないでしょうか.BPPVや前庭神経炎などの末梢性めまいは帰宅可能であり,疾患自体は重篤なものではありませんが,患者さんが感じる症状は私たちが思っている以上に辛いものです.その場で可能な限り症状を取り除き,再燃,再発を防ぐためにはどのような点に注意するべきか,再び起こってしまった場合にはどのように対処するべきか,本人,家族が理解しやすいように十分に説明することを徹底しましょう. 持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural perceptual dizziness:PPPD)という疾患を聞いたことがあるでしょうか? 皆さんが,救急外来で具体的なめまいの原因を突き止め,十分に病状説明を行わなければ,そのめまいがPPPDへ移行するかもしれません.PPPDに関しては石塚先生の稿〔「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」(p.1169〜)〕を要チェック! おわりに 本特集だけで“めまい”診療が完璧になるとは思いません.しかし,これを機にめまいを訴える患者さんに対してまず実践すべきことは理解できるでしょう.そして,めまいを訴える患者さんを積極的に診察したくなるはずです.皆さんがめまい診療への苦手意識を少しでも克服できるよう期待しています. 引用文献 坂本 壮:特集にあたって 〜ERでのエラーの話をしよう!.レジデントノート,21:1722-1726,2019 Tarnutzer AA, et al:ED misdiagnosis of cerebrovascular events in the era of modern neuroimaging:A meta-analysis. Neurology, 88:1468-1477, 2017(PMID:28356464) 参考文献・もっと学びたい人のために 「めまい診療シンプルアプローチ」(城倉 健/著),医学書院,2013 ↑めまい診療においてまず押さえておくべき基本的事項がわかりやすく記載されています. 「症状や所見からアプローチする めまいのみかた」(井口正寛/監訳),メディカル・サイエンス・インターナショナル,2020 ↑動画が豊富.患者さんを実際に診察する前に一度は典型的な眼振所見や,診察方法を動画で予習しておきましょう. 著者プロフィール 坂本 壮(So Sakamoto)総合病院国保旭中央病院 救急救命科 ERで初期研修医とともに診療にあたっていると,彼らから学ぶことも数多くあります(これ本当).頼りにしてるぞ,研修医! 同期と比較し焦ることもあると思いますが,比べるのは同期ではなく“昨日の自分”.一歩一歩成長していけばいいじゃない.何か困ったことがあればこちらまで.“三銃士”のfacebookページやnoteも見てね!