研究時間は楽しく生み出せ!ラボを主宰するなかで著者が編み出した,仕事の効率がぐっと上がるワザやアプリ活用法を大公開.PIになるためのノウハウも伝授します.雑用につぶされそうなあなたに,本書で幸せを!
『ライフハックで雑用上等』.お,勢いのあるタイトルだ.意味はわからんけれど(恥ずかしながら,ライフハックという言葉を知らなかった).副題が『忙しい研究者のための時間活用術』.なるほど.即読まねば.しかし,むむむ,忙しすぎて読む暇がない… これさえ読めば読む時間がつくれるのに.などと葛藤する暇があったらさっさと読めばよいのである.読みました.面白い.読み始めたら一気に読んでしまった.
「ライフハック」というのは,“ちょっとしたツールやデバイスを使って,日常生活をストレスフリーに変える工夫のこと”だそうで,本書では主にさまざまなパソコンのアプリケーションが紹介されている.なお,読者として実験系,特に生命科学分野の研究者が想定されている.私もガジェット好きなのでたくさん紹介されているアプリのなかにはすでに活用しているものもあったが,知らなかったものは早速ダウンロードして有用性を実感した.筆者のオタクサイドとベテラン研究者としての経験が合体し,実際に役立つ情報が満載された本となっている.そんなのネットで自分で見つけられると思うかもしれないが,ばらばらの情報がごまんと漂うサルガッソー海で彷徨うのはそれこそ膨大な時間がかかるので,明確なコンセプトのもと考え抜かれてまとめられた本書は,実にありがたい文字どおりの実用書である.
さて,ではこの本を読んで私は自分の時間を活用できるようになったであろうか.答えは明快に否である.しかしそれはこの本のせいではなく,人類誕生以来の深遠な問題である“ぎりぎりにならないと仕事をする気が起こらない”という(一部の)人間の性ゆえである.せっかく仕事が効率化できても,できた時間に何もせずにぼうっとしてしまう.現にこの書評の執筆も,締切を2度落としている.では私のようなイツユビナマケモノ属(たくさんいると思う)の人間には,この本を読む意味はないのか? いや大いにあります.ああ,こうすればここがスムースになるんだということを知ること自体が快感だから.これも人間(あるいは研究者)の本質である.日々の営みがロジカルに整然と進行する(可能性がある)ことはヒトの美意識をよび起こす.そういった意味で本書は,名著『知的生産の技術』(梅棹忠夫)や『料理の四面体』(玉村豊男)に通じるものがある.論理的であることは,美しく,心地よい.
本書の第5章だけは時間活用術というより,プロの研究者としての心構えが書かれている.だが,押しつけがましい精神論ではなく,著者の研究に対する想いが滲んだものになっており同業者として共感大であった.次は,もっとこの著者の内面の,情熱・矜持・寂しさ・諦め・苦悩・後進への温かい眼差しなどを書く「格闘技系教授の生活と意見」を執筆してほしい(著者の趣味はブラジリアン柔術で,紫帯である).山口 瞳の『江分利満氏の優雅な生活』のような感じがいいんじゃないでしょうか(若い人は江分利満氏なんて知らないか…).なお著者が,全然研究者に見えないところもいい.しかもジェイソン・ステイサムのような厳つい風貌の奥に,科学への真摯さと鋼の客観性と控え目で繊細な部分が秘められていて,さらに星1つ.
本書は全国の羊土社取扱書店にてご購入いただけます.店頭にて見当たらない場合は,下記情報を書店にお伝え下さい.
お近くに取扱書店が無い場合,特に海外でご覧になりたい場合,羊土社HPでのご注文および発送も承っておりますので,下記ご参照のうえ,注文をご検討ください.
本書を羊土社HPにてご購入いただきますと,本体価格に加えて,送付先・お支払い方法などにより下記の費用がかかります.お手続き等詳細は書籍購入案内のページをご参照ください.
※この表は本書のみご購入いただいた場合の費用をまとめたものです.他の書籍を同時に購入する場合はお申し込み金額や重量により費用が異なってまいりますのでご注意ください.