特集にあたって
特集にあたって
「その輸液,大丈夫ですか?」
永井友基
(長崎医療センター 総合内科)
はじめまして.長崎医療センター 総合内科で指導医をしています,永井友基(ながいゆうき)と申します.本特集を手に取っていただき,ありがとうございます.
私は指導医として日々研修医の皆さんと向き合うなかで,「輸液」に関して迷いや不安を抱えている姿をよく目にします.輸液は医療現場で非常に基本的でありながら奥深いテーマであり,正しく学べば大きな武器になります.しかし一方で,見よう見まねや経験則で進めてしまうことが多い分野でもあります.私自身も研修医時代に多くの失敗を経験し,そのたびに輸液の奥深さと重要性を痛感してきました.その経験が,このテーマで執筆をするきっかけになりました.
おそらく,本特集を手に取ってくださった方々の多くが,初期研修医の先生方ではないでしょうか.日々,病棟で患者さんに輸液をオーダーしたり,ルートを確保したりしている場面が多いかと思います.健康な方や臓器の機能に余裕がある方であれば,腎臓や肝臓,心臓が調整してくれるため,多少の誤差があっても問題が生じないことが多いでしょう.しかし,入院される患者さんの多くは,そのような「余力」がない状態です.不適切な輸液を行えば,治療のつもりがかえって病状を悪化させてしまう可能性もあります.
皆さんも,例えば,小柄な患者さんに3号液を1,500 mL投与して低ナトリウム血症を引き起こしてしまったり,肝硬変の患者さんに輸液を過剰に行って腹水が増えてしまったり――そんな失敗をしたことはありませんか? また,腎不全の患者さんにどれくらいの量の輸液を投与すべきか迷ったことはありませんか? 脱水が改善したかどうか,どの指標をみればよいかわからない,という経験はないでしょうか? 輸液に関するこうした失敗や悩みは尽きませんよね.
一方で,「輸液」について系統立てて学ぶ機会は少なく,体系立って学んだことのない人も多いのではないでしょうか.もちろん,輸液の処方にも考え方や「お作法」があります.そして,その基本をしっかりとマスターすれば,病態に応じた応用も自然とできるようになります.
本特集では,皆さんが「明日から病棟で輸液を適切に処方できる」ことをめざして構成しています.内容は大きく総論と各論に分かれており,以下のようなトピックを扱っています.
1総論:病棟の輸液の基本
1) 輸液やルート確保の有害性
輸液は大切な医療行為ですが,同時にリスクを伴う行為でもあります.最初にその点を明確にし,リスクを意識したうえで適切に行うことの重要性を解説します.適応に関しては,本特集を一緒に執筆してくれている柴﨑先生の提案している3R「Resuscitation(蘇生),Redistribution(補正),Routine
maintenance(維持)」を意識して判断しましょう1).
2) 人体の体液成分や輸液製剤の基本的な考え方,維持輸液の組み方
細胞外液補充液や自由水補液,1号液・3号液といった用語を明確に定義し,維持輸液を具体的にどう組み立てればよいのかを詳しく説明します.
2各論:病棟でよくみる病態の輸液
それぞれ皆さんが病棟で頻繁に遭遇し,そして困るであろう病態を取り上げています.これらの病態における輸液量や電解質の調整方法を,具体例を交えながら解説しています.
1) Routine maintenance(維持)としての輸液
肝硬変や肝不全の患者さん,腎不全や透析の患者さんを題材に日々の輸液について学びます.
2) Redistribution(補正)としての輸液
脱水症や腸閉塞の患者さんを題材に日々の輸液について学びます.もちろんここではRoutine maintenanceの要素も含まれてきます.
3) Resuscitation(蘇生)としての輸液
病棟で遭遇するショックに対する,病態生理や実際の鑑別を頭に入れながらの蘇生輸液について学びます.
3「できるようになる」にこだわった
本特集はただの知識の羅列ではありません.総論では輸液の全体像をつかむための基本を,各論では病棟でよく遭遇するシチュエーションを具体的に掘り下げています.また,輸液開始後にどう調整するか,減量や中止の方法まで詳しく述べている点はほかの本ではみられない特徴です.本特集を読めば,病棟で輸液の処方をする際に迷わず,適切な判断ができるようになります.それだけでなく,輸液をするにあたり必要な病態生理についても触れるようにしていますので,輸液を通じて患者さんの病態生理や全身状態を理解し,治療全体を俯瞰して考えられる力が身につきます.適切な輸液を行うためには,病態や患者さんの状態の理解は不可欠で,医師としても成長を必要としますし,本特集はそのお手伝いができると思います.
4本特集での用語の定義
本特集では,下記のように用語を定義します.
1) 細胞外液補充液
一般的には生理食塩水,乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液が含まれています.厳密にいうと使い分けを推奨されている場面もなくはないですが,ほとんどの場面で乳酸リンゲル液を使用するので問題ないため,本特集では細胞外液補充液を使用する場面では「乳酸リンゲル液」としています.商品名とする場合にはラクテック®としています.
2) 自由水補液
一般的には5%ブドウ糖液を指すため,本特集では自由水輸液を使用する場面では「5%ブドウ糖液」としています.
3) 1号液,3号液
ソルデム®1,ソルデム®3Aに統一しています.
さいごに
私自身,研修医時代には『レジデントノート』を愛読し,日々の診療に役立てていました.そのような私が今回,このような特集を担当させていただける機会に恵まれ,大変感慨深いものがあります.信頼できる仲間たちとともに,皆さんの明日の診療に役立つ内容をめざしてつくり上げました.本特集が皆さんの日々の診療に少しでも役立ち,患者さんの治療に貢献できることを願っています.そして,これからも皆さんが研修医としての経験を積み,成長していくお手伝いができれば幸いです.
引用文献
- 「レジデントノート Vol.24 No.3 輸液ルネサンス」(柴﨑俊一/編),羊土社,2022
著者プロフィール
永井友基(Yuki Nagai)
長崎医療センター 総合内科 医師17年目
内科認定医,総合内科専門医・指導医,血液内科専門医,JMECCインストラクター
My Mission:「当たり前のことを当たり前にできる医療者を育てることによって社会に貢献する」
みんなで楽しくHospitalistになろう!勉強会(みんほす!) 代表
Antaa Slide 保存数No1「研修医に知ってほしい抗菌薬」,No3「病棟での輸液の組み方!」
民間医局コネクトセミナー講師
MEDIC MEDIA研修Assist「研修医のための動画シリーズ 1分で学ぶ病棟管理/はじめての病棟業務」監修