胸椎に圧迫骨折があるようなので,痛みはそれによるものかなと思います.見えませんけど,骨折で,脊髄の圧迫もあるのかなと思っています.骨転移の可能性もあるのでしょうか.
超高齢社会において,突然発症でもない背部痛,腰痛の症例は高頻度に経験される.薬局で自由にNSAIDsも購入でき,痛みがあっても「歳だからこんなものか」というように自身でコントロールしようとする人も多く,そもそも研修医がたくさんいるような比較的大きな病院には来院されないことがほとんどかもしれない.当然NSAIDs内服により鎮痛だけでなく解熱されているケースも存在する.今回はそのような教訓的な症例を紹介する.
椎体炎や椎間板炎は,黄色ブドウ球菌などが血行性に椎体や椎間板に移行し,そこで感染巣を形成する病態である.脊柱管内に膿瘍を形成したり,骨折によって脊柱管や椎間孔の狭小化をきたしたりすることがあり,それによる脊髄や神経根の圧排で神経症状も生じうる.不可逆な神経障害となるとその後のADLを著しく損なうため,的確な診断と,抗菌薬の投与,固定術やドレナージなどの治療介入が求められる.
CTでは本例のように,椎間を挟んだ2つの椎体の溶骨像(骨の輪郭がわかりにくくなる)が最も見つけやすい異常と思われる.ただこれは提示されているように矢状断像だとわかりやすいが,横断像を中心に観察していると見逃しやすい所見である.考え方としては矢状断像でこの骨の異常を発見したあと,横断像でその周囲に軟部影や脂肪織混濁がないか確認する(特異度の高い所見とも言い難いが,通常の骨粗鬆症などによる圧迫骨折ではみられない).転移性骨腫瘍が重要な鑑別になるが,本例のように連続する2椎体のみに病変が限局している場合は感染の可能性をより上位にあげてもよい.ただ両者の鑑別はCTでは限界があり,脊柱管や周囲軟部組織の確認も含めて,MRIも積極的に活用すべきと考える(図3).
2024年6月号でも同様に背部痛(腰痛)として骨の腫瘍性病変を取り上げた.くり返しにはなるが,「症状の原因は内臓に限らない」.椎体炎・椎間板炎は,例えば大動脈解離と比較すると直ちに致死的になりうる疾患ではないし,転移性骨腫瘍と比較すると遭遇する機会は低いものの,見逃したくはない重要な疾患である.日常診療をしていて「一般的な内臓の異常所見」と比較して初期研修医の注意が届きにくいと実感がある部分であること,自主的なNSAIDsの内服により症状がすでに緩和されている場合がしばしば経験されることから,年度前半のこの時期に本例を心に刻んでおいてほしい.