小児喘息の既往があり,来院時にwheezeを聴取しています.喘息発作でしょうか.
胸部単純X線写真にて右上肺野内側(図1◯)と左下肺野で左第4弓をシルエットアウトしない部位(図1▶)に境界不鮮明で内部不均一な斑状影を認める.傍気管線は保たれており(図1➡),縦隔に接する病変は否定的であった.以上から,免疫正常の成人男性に発症した両肺に分布する市中肺炎を考える.咳嗽症状が強いこと・白血球上昇や肺炎を示唆する胸部聴診所見に乏しいことなどから非定型肺炎が疑われ,ウイルス性肺炎も鑑別となる.4 L/分の酸素必要量があり,呼気時のwheezeを聴取することから肺炎と気管支喘息発作を併発した病態も考えられた.
胸部CTでは右上葉に気道に沿った帯状の陰影を認め(図2A),左下葉はびまん性の気管支壁肥厚が目立ち,気管支粘液塞栓や気管支血管束に沿ったモザイク状のすりガラス影(図2B➡)および小葉中心性の小結節(図2B▶)を認め,気管支肺炎を考える所見であった.COVID-19肺炎のような胸膜直下末梢側のすりガラス影は認めなかった.気管支喘息発作以外のwheezeを伴う疾患(心不全,肺血栓塞栓症,気管支拡張症など)を積極的に疑う病歴や検査所見は認めなかった.入院時に施行した血液,尿,喀痰培養にて有意菌の検出はなく,鼻咽頭ぬぐい液FilmArray®呼吸器パネル2.1にてヒトメタニューモウイルス(hMPV)が陽性となった.以上から気管支喘息発作を伴うhMPV肺炎と診断した.
入院後,細菌性肺炎併存の可能性も考慮してセフトリアキソンとアジスロマイシン,また気管支喘息発作として吸入ステロイド(ICS)/長時間作用性β刺激薬(LABA)/長時間作用性抗コリン薬(LAMA)吸入薬,および全身性ステロイドを開始した.症状は徐々に軽快し,入院3日目に酸素投与を終了し,入院4日目に自宅退院した.退院4日後の外来時胸部単純X線写真にて右上肺野,左下肺野の斑状影はいずれも消失していた.
hMPVは2001年に発見されたニューモウイルス科RNAウイルスで,主に小児や免疫不全者において下気道感染症を引き起こし重症化することが知られており,CTでは小葉中心性の結節や気道散布性のすりガラス影が特徴的である1).免疫正常の成人における報告は少ないが,FilmArray®呼吸器パネル2.1により市中肺炎による入院患者の3.8%でhMPVが検出されたという米国の報告もある2).免疫正常の成人においてもhMPVは市中肺炎の重要な起因菌の1つと認識すべきであり,今後FilmArray®呼吸器パネル2.1の普及に伴いこれまで困難であったウイルス性肺炎の診断や病態の理解が進むことが期待される(ただし保険適用には一定の制限がある).