胆石もあるし,胆嚢が腫れているし,胆嚢炎だと思います.前に見た胆嚢炎とそっくりの画像です.え,それ以外ありますか?
急性胆嚢炎は非常によく遭遇する疾患で,この号を手にする頃には今年4月にデビューした臨床研修医の読者の多くがすでに経験したことがあると思われるが,今回紹介するのは胆嚢捻転症という,よく似た症状を呈する稀な急性疾患である.
胆嚢捻転症は,痩せた高齢女性に多く,亀背もリスク因子である.特に胆嚢が肝下面でぶらぶらと固定されていない場合(遊走胆嚢)に起こりやすいとされる.妊婦や出産直後など,腹腔内圧が急激に変化する際にも生じうる.臨床症状は急性胆嚢炎と類似するが,胆嚢自体の炎症よりも壁の急性虚血が先行するため,来院時に発熱が認められない場合がしばしばあり,血液検査でも炎症所見がない場合がある.治療法は,急性胆嚢炎であれば手術のほか経皮的胆嚢ドレナージなどの保存的治療も選択肢になるが,胆嚢捻転症は緊急手術が強く推奨される.対応が遅れると重症化するため両者の鑑別は重要で,特に「なんか普通の胆嚢炎じゃない」と早い段階で気づくことが臨床現場では鍵となる.
画像診断でも両者の鑑別は容易ではないが,薄いスライスで多方向から丁寧に胆嚢の構造を読影すると,胆嚢頸部でいびつに急角度で折れ曲がることや,内腔が急峻に狭小化することなどの画像的特徴が捉えられ,通常の急性胆嚢炎との区別が可能である(ぜひ連続画像を確認してほしい).単純CTで壁は高濃度を呈し(内出血・壊死を反映,図3▶),壁の造影効果はしばしば減弱している.
胆嚢炎に限らず,肺炎,虫垂炎といった頻度の高い疾患は,それこそ病院によっては救急当直のたびに経験するかもしれない.そのような疾患を複数回経験した頃,「こないだ経験したあれだ」と浅く診療を進めがちになる時期が誰しもある.忙しい研修の毎日,頻度の高い疾患であっても,丁寧に臨床所見や画像所見を確認し,教科書や文献などにも念のため目を通しておくことで,1つの症例からの学びの質を高め,その経験を数倍に増幅することも可能である.そうして,その疾患に対する「解像度」を自分のなかで日頃から高めておくと,本症例のような患者に出会った際に,ちょっとした違和感に気づける可能性が上がるだろう.