本症例は緊急で胸部ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair:TEVAR)が施行され,経過良好で8日後に退院となった.
外傷性大動脈損傷は鈍的外傷と鋭的外傷に分類される.鈍的外傷では交通事故や転落のような外傷時に生じる,急激な加速度変化による剪断力と全胸壁と胸椎による圧迫が機序として考えられている.好発部位は大動脈起始部,大動脈峡部,横隔膜部である.
ポータブル胸部X線写真では縦隔陰影の拡大,大動脈の輪郭消失,気管や経鼻胃管の右側偏移を認める.非造影CTでは縦隔内や大動脈内に血腫を反映した高吸収域がみられるが,確定診断,治療方針決定のためには造影CTによる大動脈の輪郭不整,大動脈径の変化,内膜のflap,造影剤の漏出像を確認する.このように外傷性大動脈解離は内因性疾患としての急性大動脈解離とは異なる部位に好発し,解離も長軸方向に短い傾向にある.自動車事故と大動脈病変の因果関係(大動脈解離を発症してから自動車事故を起こした,または自動車事故の外力により大動脈損傷をきたした)を考える際にCT画像所見がその判断材料の一助となりうる.
画像所見に基づき,外傷性大動脈損傷は内膜損傷(Grade Ⅰ),壁内血腫(Grade Ⅱ),仮性動脈瘤(Grade Ⅲ),血管破裂(Grade Ⅳ)に分類することが提唱されている(図2)1).この報告では,Grade Ⅰと判定された全例では保存的治療で救命しえたが,Grade Ⅱ,Ⅲではステントグラフト留置術または手術で治療されたと報告されている1).この分類に基づくと,本症例のCT画像所見は仮性動脈瘤(Grade Ⅲ)に相当する.なお,本稿で矢状断像を提示したように,大動脈峡部の損傷を正しく評価するためには横断像に加えて矢状断像と冠状断像を観察する必要がある.
手術とTEVARの治療成績の比較では,在院日数,片麻痺や脳梗塞といった合併症,5年時点での死亡率に差はなく,TEVARで1年以内の再治療率は6%であったが,1カ月後,1年後の死亡率はTEVARで低かったと報告されている2).「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」では解剖学的要因を満たしていれば,外科手術よりもTEVARを優先すると記載されている3).造影CTは外傷性大動脈損傷の診断,治療方針決定において欠かせない.実臨床では外傷の診断が非造影CTで行われることもあろうが,高エネルギー外傷,ポータブル胸部X線写真で縦隔拡大,非造影CTで縦隔血腫を認めた際には,造影CT(動脈相)を撮影し,多断面から観察することが求められる.