レジデントノートインタビューコーナー『あの先生に会いたい!』では,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,さらに私生活とのバランスの取り方などについて語っていただきます.また番外編では,本誌に収まりきらなかった内容をホームページ限定で紹介していきます.
渡邉先生(以下、敬称略):先生が医学界新聞の「臨床医学航海術」とかでよく書かれてることなんですけど、読み書きとか、コミュニケーションとか、そういうのが医学生、医者全体に弱いというようなことが常に言われていて、僕自身もそれは読んでて耳が痛いところなんですけれども、初期研修医に、研修しながらでもそういうところを矯正できるようなアドバイスがあれば、お願いします。
田中先生(以下、敬称略):一番いいのは、現場でプレゼンテーションをするときや話すとき、カルテを書くときに、考えてみることです。伝わってるかとか、考えてものを言っているかとか、まとめて書いてるかとか。単に書き写したりとか、機械になってしまっている人が多いです。それをまた上の先生が、一つ一つ注意していたらことが進まないから、許してしまっているところもあります。毎日がトレーニングだと思います。
ただ、日本ってあまりそういう教育をしないんですよね。せっかくカンファレンスをやっていても、黙って聞くのがいいっていうの、ないですか? 発言すると怒られるようなところがあるでしょう。
渡邉:出しゃばりみたいに。遮っていきなりしゃべれない。
田中:だから、何のためのカンファレンスかわからないのです。そういう風潮がまだ根強いです。
でも今この手の本は多いですよ、“何とか力”とか、“何とか力ブーム”とかで、ビジネス書に多いです。
渡邉:コミュニケーション能力とか。
田中:読むと当たり前のことしか書いていないんですけどね。医師はあまりビジネス書を読まない。ほかの世界と接触がないですよね。
渡邉:それは大きいのかもしれないですね。
田中:大きいです。自分たちだけで、医師は医師だけでやっています。あんまり看護師とか、あとパラメディックの人と話さないですよね。それも変な話だと思います。だから、大きく世界に興味を持つ人って少ないのでしょう。
たぶん医学以外の職場で働いてる人ってのは、自分で足りないなと思ってビジネス書を読んだりするんだろうと思いますが、医者ってやはり医学書しか読まないところがありますね。
渡邉:僕自身も本屋に行くと、すーって医学書のコーナーに行って、すーっと降りて帰ってきます。
田中:たぶんそれは病気,一種の職業病だと思います。医者って、普通の世間を知らなくなるんだよね。それは危ないことだと思います。仕事を完璧にしようとする人ほど、がんばってしまう。だから、知らないうちに、ほかと接触を絶ってしまうんですね。
渡邉:臨床医であっても象牙の塔の中にいるような、ちょっとそういうところがありますよね。
田中:読み書きだけではなく、良識や挨拶もそう。人間教育とか、社会人教育とかって、普通の企業なら徹底してやります。そういう教育を本当は研修医教育に入れなくてはいけないと思います。新臨床研修制度の目標の一番はじめに、「医師としての人格を涵養し」って書いてありますから、一部の医者は気付いてるんだと思います。
渡邉:ただ、表立ってマナー研修をするとはさすがに書けない。
田中:でも、いずれ書かなくてはいけないと思っています。基本的臨床能力以外の、基本的人間能力です。
医師って国家のもの、国民のものです。税金使って養成してるから、単に自分の興味だけで生きていては困ります。だから、税金を国民に返すっていう意味では、やっぱりそういうのはいずれ考えないといけないと思います。それもいずれやはり医師自身がやらないといけません。そうしないと、成熟した職業集団とは言えませんから。
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