本インタビューは2015年2月に行われ,実験医学2015年4月号に掲載されたものです.
―AMEDは研究予算の管理・配分を省庁横断型に行う機構だと聞いています.
“日本版NIH”構想が立ち上がった当初から,この新機構の特徴として言われていたのが「文部科学省,厚生労働省,経済産業省の3省を横断した医療研究開発の司令塔」という表現でした.ただ私は,“横断型”よりも “一体型”という表現のほうがAMEDのコンセプトにぴったりあっていると思っています.
現状でも,2つ以上の省が合同で国のミッションを果たすことはあるようです.しかし,例えばある分野の研究開発でA省とB省が連携をしている場合,その予算内訳を見るとこの部分はA省,この部分はB省と,それぞれにきちっと管理されています.2省を横断したプロジェクトでありながら,予算の管理は一体ではない.AMEDでは,これまでどおり文科省・厚労省・経産省がそれぞれ予算を計上するところまでは変わりませんが,加えて,その予算を集約して管理するというのがその特徴です.基礎研究から実用化までの幅広い研究に対して,内閣府を含めたAMEDを所管する3省1府一体型の予算管理を行うというのが,既存の独立行政法人との大きな違いになります.そうすることで多くの無駄を省き,研究者の方々に効率的な医療研究開発をしてもらおうというのが狙いです.
―具体的には,何がどのように変わるのでしょうか?
基礎研究から実用化までの幅広いスペクトラムの研究を一貫して支援するためには,予算を一元的に管理するだけではだめで,色々な制度を改革する必要があります.
例えば,予算をもらって研究をした場合,その報告書を書きますよね.当然,基礎研究,橋渡し研究,臨床研究の評価の仕方は違います.ただ,この研究は文科省管轄だから,こっちは厚労省管轄だからといって報告書のフォーマットが別々なのは研究者から見るとすごく大変でしょう.例えば各省から予算をもらって「iPS細胞を用いた再生医療」の研究をしている研究者がいるとします.報告書のフォーマットがばらばらだと,もしその人が基礎研究から実用化まで一貫して研究をしている場合,基礎研究,橋渡し研究,臨床研究の3研究×3省分,多数の報告書を書かないといけないですよね.こういう負担を,できるだけ軽くしていきたいと考えています.
―省庁をまたぐことの障害というと,購入した機器の使用制限を思い浮かべます.
そこが結構大変なところかなと思っています.文科省の予算で買った次世代シークエンサーで厚労省の研究ができますか,ということですよね.私も研究者の端くれでしたので,多くの現場の研究者がそういった融通性を望んでいるということは身をもって感じています.
あとは研究費の年度超えを許容するかということも,研究者の関心の高いところかと思います.
これらのいくつかは法律の問題などもあり決して簡単な改革ではありませんが,制度の精査を行い,できる限り融通性の高い弾力的な研究費システムを確立していきたいと考えています.
―AMEDの研究費の公募はいつから始まるのでしょうか.
平成27年度の公募は,すでに文科省・厚労省・経産省の既存プロジェクトからの契約移管という形でスタートしています.平成28年度分については,この8月に概算要求が行われる予定です.
―実際にAMEDの研究費で研究をするときに気をつけないといけないことはありますか.
AMEDに配分される研究に要する経費は,運営費交付金ではなく補助金としてスタートする予定です.その補助金からAMEDが委託して各大学や研究機関にお金が配られる,それを用いて研究をするという「委託事業」の費用です.これはもしかすると,JSPS(日本学術振興会)などの申請の仕方に慣れた方には多少違和感があるかもしれません.JSPSの基礎研究では「自分はこういう夢を持っている.だからこういうことをやりたい」で構わないかもしれませんが,委託契約では「これもやります,あれもやります」と言ったら本当にやらなければいけなくなります.新機構は制度を正しく理解していただき,開発の現場におられる研究者,大学等の研究支援部門,新機構の間の意識や考え方の違いを埋めていく努力もしていきたいと思います.