実験医学 2007年2月号 Vol.25 No.3

脳形成を司る

ニューロン移動の時空間的制御

精神神経疾患治療,再生医学への可能性に向けて

  • 見学美根子,仲嶋一範/企画
  • 2007年01月19日発行
  • B5判
  • 119ページ
  • ISBN 978-4-7581-0020-5
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》乳動物の精密な脳皮質形成過程で新生ニューロンが誕生部位から細胞移動する現象については,一世紀以上前からの多くの研究の蓄積がある.しかしながら昨今の顕微鏡技術の革新により,移動するニューロンの起源やダイナミクスについて従来の考えを覆す発見が次々となされている.また,ニューロン移動の異常に起因する脳奇形や精神神経疾患の原因遺伝子の特定により,移動の分子機構が急速に明らかになりつつある.本特集では,ニューロン移動の細胞・分子メカニズムの最新の知見について概説し,その生理的・病理的意義について議論する.

革新的なイメージング技術を駆使したダイナミックなニューロン移動の分子・細胞メカニズムの新展開を紹介!ニューロン移動の異常による脳の形態形成異常と精神神経疾患の発症についても第一線の研究者が解説します.

目次

特集

脳形成を司る
ニューロン移動の時空間的制御
精神神経疾患治療,再生医学への可能性に向けて
企画/見学美根子/仲嶋一範
概論〜ニューロンの細胞移動と脳皮質形成のメカニズム【見学美根子/仲嶋一範】
乳動物の精密な脳皮質形成過程で新生ニューロンが誕生部位から細胞移動する現象については,一世紀以上前からの多くの研究の蓄積がある.しかしながら昨今の顕微鏡技術の革新により,移動するニューロンの起源やダイナミクスについて従来の考えを覆す発見が次々となされている.また,ニューロン移動の異常に起因する脳奇形や精神神経疾患の原因遺伝子の特定により,移動の分子機構が急速に明らかになりつつある.本特集では,ニューロン移動の細胞・分子メカニズムの最新の知見について概説し,その生理的・病理的意義について議論する.
大脳皮質原基におけるニューロンの誕生と旅立ち【宮田卓樹】
脳形成過程における細胞移動は,従来,おもにニューロンの仕事として位置づけられ研究されてきた.しかし,最近,前駆細胞がニューロン配置予定箇所ないし近傍まで出向いてから分裂し,ニューロンを生み出すとの現象が大脳皮質原基で確認された.手薄であった脳室面生まれ娘細胞の「旅立ち」の局面における形態変化が詳しくわかるにつれて,娘細胞がいつ「ニューロン」と運命決定されるのか,という「非対称分裂」と密接にかかわる問いが,実は未解決であると意識できるようになった.「誕生」と「旅立ち」を分けずに見つめる努力が求められそうだ.
発生期大脳皮質におけるニューロンの移動と配置のダイナミクス【森本桂子/仲嶋一範】
大脳皮質を構成するニューロンは,興奮性ニューロンと抑制性ニューロンとに大別されるが,興味深いことに両者はその起源と移動経路が全く異なる.“生きた ”脳内におけるこれらのダイナミックな移動と配置の様相が,近年次第に明らかになってきた.統合失調症などの精神神経疾患との関連も注目され,今後の発展が期待される.
成体脳における新生ニューロンの移動【廣田ゆき/澤本和延】
近年,成体の脳にも神経幹細胞が存在し,活発にニューロン新生を行っていることが確認された.側脳室の脳室壁周辺で生まれた新生ニューロンは長距離を高速に移動する.この移動のメカニズムにかかわる重要な分子や細胞が明らかにされつつある.さらに傷害を受けた脳においては,脳室下帯において産生されたニューロンが傷害部位へ移動し成熟することが明らかとなり,再生医学の観点からも注目を集めている.
神経細胞移動における中心体,核移動のダイナミクス【梅嶋宏樹/見学美根子】
神経細胞の移動ダイナミクスは他の細胞と大きく異なる特徴を示し,それを制御する細胞内メカニズムも異なると考えられている.近年,神経細胞の移動に中心体とそこから形成される微小管骨格が重要な役割を担うらしいことが明らかになってきた.本稿では,移動中の神経細胞における中心体の挙動について最近報告された知見とわれわれが得た実験結果を紹介し,そこから考えられる神経細胞移動の細胞内メカニズムと中心体の役割について論じる.
アクチン結合分子による細胞移動の制御と神経疾患【佐藤 真】
側脳室周囲の大脳皮質脳室帯にて生まれた興奮性神経細胞は,法線方向に脳表へと移動し将来の大脳皮質を形づくる.この細胞移動は精密に制御され,細胞は層構造をなし大脳皮質内に配置され,高次機能実現の基盤となる.アクチンと微小管が協調的に制御され,この精緻な細胞配置を実現するしくみが次第に明らかとなってきた.さらに最近では,その破綻が,脳形成異常のみならず精神・神経疾患の発症素地となりうることが報告されはじめている.この細胞移動に重要な役割を担うアクチン繊維の制御のしくみとその破綻に伴う病態について概説する.
微小管関連タンパク質による神経細胞遊走の制御と神経疾患〜doublecortinとその仲間たち【田中輝幸】
ヒトの神経細胞遊走障害であるX連鎖性滑脳症/SBHの原因遺伝子doublecortin(DCX)は微小管関連タンパク質をコードし,正常な神経細胞遊走に微小管動態調節機構が不可欠であることを物語る.近年のDCX研究は,微小管結合機序,CDK5,PKA,MARK,JNKによるリン酸化,LIS1,F-アクチン,AP-1/2,DFFRX,neurofascinとの相互作用など,その幅広い分子機能を明らかにしてきた.またDCXは進化的に保存された微小管結合領域を特徴とするスーパーファミリーに属し,近縁ホモログが作用重複性をもって神経細胞遊走を制御することも示された.本稿では,神経学,人類遺伝学,分子細胞生物学の共働から得られた,DCXと多くの仲間たちによる神経細胞遊走制御機構の研究成果を概説する.

トピックス

カレントトピックス
p16INK4a-RB経路は増殖シグナルと協調して不可逆的な細胞老化を誘導する【高橋暁子/大谷直子/原 英二】
膜輸送制御タンパク質Protrudinによる神経突起の形成機構【白根道子/中山敬一】
N末端メチオニンを介した新しいポリユビキチン鎖【桐浴隆嘉/岩井一宏】
Small RNA(CsrB/C)の分解を制御するGGDEF-EALタンパク質CsrD【鈴木一史】
News & Hot Paper Digest
Mesoangioblast移植による筋ジストロフィーの細胞治療【原 孝彦】
網羅的RNA干渉による新規ERK制御ネットワークの同定【畠山眞里子】
細胞内リン酸化状態の大規模解析【松本雅記】
生体の代謝環境を改善するResveratrol【根建 拓】
理系研究者の新しいキャリアとしてのコンサルティングファーム【島岡 要】

連載

クローズアップ実験法
細胞膜微小領域の生化学分画法【田口勝敏/前川昌平】
Update Review
糖鎖から疾患解明へ—糖鎖研究の躍進と疾患解明・治療応用への可能性【遠藤玉夫】
私が名付けた遺伝子
第26回 Synoviolin 〜シノビオリン その滑らかな音色とともに〜【中島利博】
疾患解明Overview
Rett症候群 エピジェネティクスの理解を進展させた精神発達障害疾患【久保田健夫/伊藤雅之】
ラボレポート−独立編−
独立するために知っておくべきたった一つのこと〜CBR Institute for Biomedical Research, Harvard Medical School【島岡 要】

関連情報

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  • 【本書名】実験医学:脳形成を司る ニューロン移動の時空間的制御〜精神神経疾患治療,再生医学への可能性に向けて
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