論文では前回の<例文4>のような短い主語の文だけでなく,<例文5>のように後に長い説明(修飾語句)を伴う主語を用いることも多い.このような名詞の後に続く修飾語は,形容詞句あるいは形容詞節である(図1-③).英語では後ろから名詞を説明するのが当たり前なので,よく覚えておこう.主語が名詞を説明する形容詞句を伴う例としては,次のような文がある.
The identification of numerous microtubule-associated proteins may have a profound impact on the study and treatment of human genetic disease.
(多数のマイクロチューブ結合タンパク質の同定は,ヒトの遺伝性疾患の研究と治療に対する著明な影響を持つかもしれない)
ここでは,例文とその日本語訳の語順の違いに注目していただきたい.日本語では,修飾語は名詞の前のみに置かれるという特徴がある.そのため<例文6>の英文では,numerous microtubule-associated proteinsがidentificationの後にあるにも関わらず,日本語訳では「多数のマイクロチューブ結合タンパク質の」が主語である「同定」の前に置かれている.ここに日本語と英語の際だった違いがある点に注目しよう.もちろん,一語の形容詞や冠詞などは前に置かれるので,英語では名詞を前と後ろの両方から説明することができるという利点もある.
形容詞句だけでなく,形容詞節も後ろから名詞を説明する.形容詞節には,下の<例文7>のように関係代名詞が使われることが多い.
The mechanisms that cause these translocations are not fully understood.
(これらの転位置を起こす機構は完全には理解されていない)
形容詞句・形容詞節に修飾される名詞は主語だけでなく,目的語や補語あるいは句の構成要素としても用いられる.句の中の名詞に対しても(修飾語形容詞句・形容詞節)を後ろに置くことができるが,それが直前の語を修飾する限り,いくつ句を後ろにつないでも誤解されることはあまりない.例文5のような文の場合である.名詞+形容詞句を後ろから前に理解するのではなく,前から順に説明を理解していく感覚で読むことが大切だ.
このとき使われる前置詞は形容詞句の先頭に来るが,後ろの語句よりも前の名詞との結び付きの方が強い点にも注意しよう.使われる前置詞は、前の名詞が何かで決まってくる場合も多い。そのため特徴的なパターンで使われるものは、「名詞+前置詞」のセットで習得することもポイントである.よく使われる組み合わせの例を表2-1に示す。
interaction between ~ | ~の間の相互作用 |
relationship between ~ | ~の間の関連性 |
evidence for ~ | ~の証拠 |
model for ~ | ~のためのモデル |
data from ~ | ~からのデータ |
release from ~ | ~からの放出 |
change in ~ | ~の変化 |
difference in ~ | ~の違い |
insight into ~ | ~への洞察 |
impact on ~ | ~に対する影響 |
dependence on ~ | ~への依存性 |
resistance to ~ | ~に対する抵抗 |
patient with ~ | ~の患者 |
interaction with ~ | ~との相互作用 |
表2-1. よく使われる特徴的な名詞+前置詞の組み合わせの例
<ここがポイント>
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