作業記憶は理解,学習,推論など認知的な課題の遂行中に情報を一時的に保持し操作するためのシステムと定義される.作業記憶が損なわれると,文章を読んでいても途中で前半の内容がわからなくなり文意を捉えられなくなる.複雑な会話を交わすことも難しくなる.学習障害,アルツハイマー病や統合失調症などの中核症状に作業記憶の異常が想定されているが,その神経基盤についてはいまだ統一的な理解が得られていない.古典的な破壊実験から前頭皮質が作業記憶に必須の役割を果たすことが知られているが,作業記憶に必要な数十秒から数分の間,課題に関連する神経活動を継続させるしくみがよくわかっていなかった.最近,ロックフェラー大学のRajasethupathy博士らのグループは,マウスの順遺伝学を用いた研究により,視床における単一の遺伝子の発現量が作業記憶能力の良し悪しを左右することを発見した(Hsiao K, et al:Cell, 183:522-536.e19, 2020).
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