本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
世のなかにインパクトを与える研究を行うためには,本人の研究能力に加えて広い視野や研究者同士のネットワークも重要である.しかし,学生である期間は他の研究室の人と交流する機会になかなか恵まれない.さらに,学会などで知り合った研究者と継続的に交流を続けていくことも容易ではない.このような状況を積極的に解決したいと考えている方は,「若手の会」の活動に参加してみてはいかがだろうか?
若手の会は,ある特定の分野の大学院生や研究員によって構成される任意団体である.生物物理若手の会,生命情報科学若手の会など多数の若手の会が存在し,若手研究者同士の交流を目的として全国各地でシンポジウムやセミナーを開催している.本稿では,われわれが所属する「生化学若い研究者の会」(通称:生化若手の会)を例にあげ,その具体的な活動について紹介したい.
「生化学若い研究者の会」(http://www.seikawakate.com/)は,生命科学分野を専攻する若手研究者(大学院生・研究員)を中心に構成されている.当会は発足以来,全国の参加者を対象として年に1度開催する「生命科学 夏の学校」と,地域ごとに年間を通じて開催する「支部会」という2つの企画を主軸として活動を行ってきた.「生命科学 夏の学校」(以下「夏学」)は,最先端の研究動向の把握に加え,活動地域や大学・分野の垣根を越えた交流を目的とする滞在型研究会である.夏学は1961年以来絶えることなく開催され,2010年に半世紀の節目を迎えた.記念すべき第50回は,9月3~5日にかけての3日間,箱根高原ホテルにて盛大に行われた.171名の若手研究者に加え,学際領域のみならず産業界や行政部門の第一線で活躍する48名のOBOG・講師が集まり,まさに世代・分野を越えた交流が実現した.
夏学の特徴は,参加者同士の議論を重視したプログラム設定と,多彩な背景の広がりをもつ参加者構成にある.参加者はグループワーク,研究交流会や懇親会を通じて自らの研究について熱く語り合い,自然とネットワークを形成していく.また,幅広い分野に浸透した分子生物学から新興分野の合成生物学,基礎研究から臨床研究までと,参加者の研究対象には際限がない.そのため,夏学に参加してはじめて出会う研究内容は多く,これを自らの研究と結びつけて共同研究に発展させた人や異分野に研究領域を広げた人も少なくない.
夏学で手に入れた交流を継続する手段として「支部会」や「若手の会の運営」への参加があげられる.支部会は北海道から中四国に至る各地域に存在し,勉強会やレクリエーション企画を定期的に開催している.最寄り地域の支部会に参加することで,地元での交流を継続し新たなネットワークを形成することができる.こういった若手の会の運営は,全国各地に散らばる学生スタッフによって行われる.スタッフは運営を通じて地域を越えた交流を継続させ,信頼できる仲間へと成長していく.50年後の今でも公私ともに交流を続けているOBOGの姿を見れば,夏学をきっかけとして得られる仲間が一生の財産となることがよくわかる.
このように,出会いや成長の場であることが若手の会の大きな魅力である.同世代の仲間に加え,新進気鋭の若手研究者から大御所の先生まで,さまざまな背景をもつ仲間と時間を共有することはとても貴重な経験となる.興味を抱かれたそこのあなた! 夏のひととき,頭を絞って議論をしてみてはいかがだろうか.きっと有形無形の財産が得られるはずである.
豊田 優,谷 友香子(第50回生命科学 夏の学校スタッフを代表して)
※実験医学2011年1月号より転載