本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
幸せな研究生活を送るためには,どの研究室を選ぶかがとても重要だ.研究室に所属したはいいが学生と指導教員の思惑が異なり不幸せな研究生活を送ることになった例は,枚挙に暇がない.本稿では,多くの若手研究者の話を聞いた立場から,研究室選びに迷っている学生へのささやかなアドバイスとして,自分が何をしたいのかを明確にして,多種多様な研究室の実態をつかむことを提案したい.
まず考えてほしいのは「研究室へ行く目的」である.それは,ある分野で研究したい,卓越した業績を出したい,しっかりした指導を受けたい,留学したい,企業に就職したい,明るく楽しい生活を送りたいなど,何でもかまわない.自分が重視する点を明確にする必要がある.
次に,目標とする研究室の研究内容,業績,研究資金,卒業生の進路,研究室の雰囲気などについての下調べが大切だ.研究室の情報を得るためには,研究室のウェブサイトを調べるのが最初になる.ここで調べるのは研究内容と業績だ.業績については,論文の発表頻度と投稿雑誌のレベルを調べるとよい.ウェブサイトの内容と最近出版された重要な論文をチェックしておくと,研究室訪問のときにうまく話が進むだろうし,研究室側もそのくらいは見ていて欲しいと思っている.もし,ウェブサイトからそれらの情報が得られない場合は,以下のようなサイトを調べるとよい.『ReaD & Researchmap』では,研究者名から経歴,論文・著書,競争的資金などの情報を検索することができる.また,研究者がどのような研究費を取っているかは『KAKEN-科学研究費補助金データベース』で調べることができる.もしなじみのない雑誌であれば,そのレベルの目安としてインパクトファクターを調べてみよう.『インパクトファクターサポート』を参照するとよい.最近は研究室のウェブサイトも充実していて,その情報のみから判断して研究室を選ぶ人が増えている.しかしながら,ウェブサイトに研究室のすべての情報が掲載されているわけではないので,それのみでイメージをつくるのは危険だ.
一番重要なことは,実際に目当ての研究室を訪問し,研究室指導者やスタッフ,所属する先輩学生の話を聞くことだ.そのときに,具体的な研究内容,教授はどんな人か,研究室の雰囲気,卒業生の進路,就職活動ができるかなどを聞いておくとよい.所属学生が自分の研究室を語るときに幸せそうであるかどうかは1つの目安になる.研究室の学生たちが揃って浮かない表情をしていたり,教授の愚痴しか言わないようなところは,それなりの理由がある可能性が高いのでよく考えた方がよいだろう.目当ての研究室を外から見た印象を,他の研究室の人から聞くのもよい.とにかく,研究室を訪れたときの雰囲気や話などを参考に,自分で判断することを大切にするべきだ.
以上を踏まえて,自分の目的を達成できると考えられる研究室を選ぶことが肝要だ.すべてがベストの研究室はなかなかないため,自分が一番大切にしている点を重視して選ぶとよい.一流の研究者を志す場合,第一線で活躍する研究室に所属し,よい研究をすることが近道となるかもしれない.しかし,それがすべてではないはずだ.研究者以外の道をめざす場合でも,できるだけ自分の目的に合致する研究室を選ぶことが,次のキャリアにつながるであろう.自らの本心に向き合い,幸せだと思えるような研究室を選ぶべきだ.皆さんの研究生活に幸多からんことを.
矢口邦雄(生化学若い研究者の会キュベット委員会)
※実験医学2012年5月号より転載