本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
街コン,相席居酒屋…と男女の出会いの場を提供するサービスが世間を賑わせている.こうしたサービスはある一定のニーズを獲得しているようで,世間では連日何かしらの出会いの場が創出されているようである.そして,研究者たちの“出会い”を提供するのが,学会であったり各種セミナーであったりする.学会に参加することは重要であるとわかっていても気が進まない,特に知り合いのいない学会には参加したくない,そんな声もよく聞く.それは楽しむべき学会の出会いを,狭く捉えているからではないだろうか.今回はそんな方々に向けて,私なりの学会の楽しみ方をご紹介したいと思う.
学会とは実に出会いにあふれた場である.論文にも載っていない最先端の研究との出会い.全く異なる考え・意見への出会い.そして切磋琢磨し合える仲間との出会いである.こうしたメリットをわかってはいるが,それでも学会参加に気が進まないという人も多いのではないか.発表準備や会期中にはどうしても時間がとられるし,知り合いのいない学会は不安だという声もよく聞く.また学会発表がトラウマだという人もいるかもしれない.
私の学会デビューは非常に苦いものであり,ある意味トラウマでもあるが,最近では学会参加を楽しめるようになった.そこでここからは,学会を楽しむために私が意識している出会いについてご紹介しよう.まず,「人との出会い」である.特にわれわれ若手に対して聴衆の大部分の方は優しいと理解することである.私の初学会でも,審査員,聴衆の方々からさまざまな前向きなご助言を賜った.そして自分では見落としていた必須のデータにも気づかされた.コンペティターもいるかとは思うが,周りは敵ばかりではなく,重要な知見を与えてくれる味方も数多くいる.また,研究室に籠っていると,同じような実験のくり返しで,気づかないうちにぬるま湯に浸かってしまっていることがよくある.学会会場で出会う同世代の人たちは,自分の研究姿勢を見直し,活力をみなぎらせてくれる源になる.
もう1つは,「食との出会い」である.会場周辺で美味しいお店を何件かピックアップしておくことをオススメする.開催地の美味しいものを食べる楽しみはモチベーションを高めてくれること間違いなしである.また,学会には飲み会がつきものであるが,こうして調べておくと2次会のお店選びでスムーズに会場選定ができる.私の場合は遠足のしおりを自作して持参している.もし学会で私に出会ったらぜひ声をかけてほしい.ネットで検索する手間くらいは省けると思う.
また,知り合いがいないから学会参加へ腰が上がらないという場合,これに関しては,われわれ若手の会が役に立てると自負している.生物物理若手の会を含め,それぞれの若手の会はさまざまな学会で活動しており,若手研究者の交流の場を設けている.そのため,若手の会のイベントには志を同じくする,つまり健全な意味での出合い目的の人,がうじゃうじゃいるのである.私も若手の会運営の生物物理夏の学校に初参加した際には,知り合いが1人もいない状況であったが,そこでさまざまな人たちと出会い,現在では生物物理若手の会スタッフとして活動するようになった.そしてそこで出会った方々とは今でも定期的に交流し刺激を受けている.
先生たちはよく「学会は同窓会だ」というが,われわれ学生や若手研究者にとって周りは見知らぬ人ばかりである.しかし,だからこそ,より出会いにあふれていると言えるのではないか.きっと何度も参加するうち,同窓会としての楽しみも生まれてくるのだろう.ぜひ怖がらずに学会,そして若手の会活動に足を運んでみて欲しい.
丸山慎太郎(生物物理若手の会)
※実験医学2018年8月号より転載