[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第110回 博士就活生に伝えたい4つのポイント

「実験医学2019年8月号掲載」

生化学若い研究者の会主催「第58回生命科学夏の学校」の参加者を対象に行ったアンケートから,博士学生の約半数が就職先や就活に不安を感じていることがわかった.博士から企業への就職はアカデミアに残れなかった人というネガティブなイメージがいまだにある一方,博士採用に前向きな企業はおそらく皆さんが思っている以上に多い.本稿では実際に博士就活生として民間企業への就活を行った筆者らの体験に基づき,博士就活に役立つ4つのポイントを伝えたい.

①就活を始める時期は早ければ早いほどいい!:一般的な博士学生が,エントリーシート(ES)を送るなどといった就活を始める時期は,最終年の春頃からが多いかと思う.しかし,この時期は研究や論文執筆で多忙なため,研究も就活も中途半端になりかねない.博士課程に進んですぐに企業就職したいと決意した方や企業に就職する可能性がある方は,こんな事態を避けるためにも博士課程の序盤から(例えば博士課程1年目から)キャリアフェアやインターンシップに参加し,自己分析と企業研究をすることが大切だ.博士学生のインターンシップは1カ月以上のものも多い(その代わり即採用につながる場合もある)ので,早い時期から指導教員と相談し,研究と進路選択を両立した計画を立てることが望ましい.

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②大学のキャリア支援機構を活用しよう!:「大学名+キャリア支援+博士」の検索ワードで大抵のキャリア支援機構は見つけられる.博士専用の支援制度をもつ大学もあるため,まずはwebページを見るか実際に足を運ぶことをお勧めする.一例として,筆者の一人が利用した東北大学ILP(博士人材の育成や進路サポートを行う機関)では,通常のキャリア支援に加えて博士学生と企業の交流会を開催していた.そこでは自身の研究とプロフィールをポスター発表形式で企業に売り込むことができる.企業からのフィードバックもあり,求められる博士像や予想外の業種からのニーズを知ることもできた.

③外部の就職支援サービスを利用しよう!:大学によってはキャリア支援機構がない場合もある.その際は公的求人情報サイト「JREC-IN Portal」や民間の就職支援サービス(例えばリクナビ就職エージェントなど)を利用することを勧める.サービスによってはキャリアフェアや個別サポートも行っており非常に有用である.筆者の一人はこの個別サポートから博士学生限定の求人情報を提供されたことで内定につながった.また,各人の事情に合わせて柔軟に対応してもらえる点も研究で忙しい博士学生にとってはありがたい.

④ES/面接対策は日頃の習慣から身につく!:意外にも博士学生はESや面接で苦戦する人が多いようである.これは学会や論文とは異なり,就活では専門知識のない人に短時間でわかりやい説明をする必要があるためだ.この“分かりやすい”というのが難しく,専門分野にどっぷり浸かった博士学生ほど苦戦することが多い.この問題に対する即時的な解決法はないため,日頃から自分の研究を専門外の人に説明する習慣をつけることが大切だ.例えば,家族や学部生に理解してもらえるくらいの説明がちょうどよい.ただ,博士学生には専門性や論理性も強く求められるので,その匙加減は大切だ.

本稿では主に博士学生の民間就活のポイントを述べた.もちろん就活に正解はなく,各人に適したプランがある.ただ,早いうちから卒業後のキャリアを考え行動することは,企業就職であれアカデミア就職であれ必ず役に立つ.この記事を読んだ博士学生には,現在の研究だけでなく修了後の自分にも目を向けてもらいたい.そして悔いのない進路選択をしてほしい.

最後に,この記事が博士学生の明るい未来のために役立てば幸いである.

石原大嗣,戌亥 海(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2019年8月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2019年8月号 Vol.37 No.13
最も修復しにくい臓器 中枢神経を再生せよ!
炎症・グリア・臓器の連環が織りなすメカニズムから機能回復に挑む

山下俊英/企画
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