[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第104回 リサーチマインドを学ぶ「マニュアルなし」の実習!

「実験医学2019年2月号掲載」

「クーラーガンガンに効いた部屋とあっつい外を行ったり来たりしたらしんどいとか,体に悪いとか聞くけど,それってホンマなんかな?」

外ではうるさいくらいにセミが鳴く夏の盛り,8月上旬.素朴な疑問から,今年の基礎統合実習ははじまった.テーマは「熱中症」.研究テーマも,実験スケジュールも自由に決められる実習がオモロイ! ということで参加学生の一人である私が今回記事を書かせていただく運びとなった.この記事が研究に興味のある学生のチャレンジの一助になれば幸いである.

基礎統合実習とは,生理学,解剖学,生化学といった基礎医学の分野をベースに,全国から岐阜大学に集まった,医療系学部の学生が5,6人のグループにわかれて行う実習である.頼りになるのは,今までおのおのが学んできた知識と好奇心,そしてアイデア.実習中に得たサンプルの解析や追加の実験を各自が大学にもち帰って追究することも可能だが,5日間である程度は結果を出さなければならない.ゆえに学生たちは寝る間を(人によっては食べる間を)惜しんで実験や考察に励む.与えられるのは疾病のシナリオのみで,決まっているのは「シナリオからテーマを考えること」だけである.シナリオから疑問点を洗い出すのも,実験計画を立てて実験をするのもすべて学生自身だ.ときには実験装置も自分たちで作製する.今年度は大学近くの百円ショップに繰り出してラットの尿を集める装置をつくった班もあった.このように,基礎統合実習には一般的な大学の実習のような「マニュアル」がない.もちろん,機械の使い方や細かい技術が必要なオペについての指導,毎日2回行われる報告会や倫理委員会でのアドバイス等は受けられるが,学生がもてる知識やアイデアをフル活用して主体的に研究に取り組めることが基礎統合実習の最大の特長だ.

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「時間と研究費(さいふ)にやさしいエコ実験」

私は学部1年生のときから夏休みを利用してこの実習に参加し,さまざまな学びを得てきた.はじめは同じグループの先輩の知識に頼りっぱなしで,知識を増やしたり,実験内容を把握するために先輩や先生方に質問したりするだけで精一杯だった.ところが,人は失敗から学ぶもので,しだいにどんなことを考えて実験を組み立てなければならないかがわかってくる.すると,段取りよく実験を進められるようになり,3度目の参加となった今年度は,よりリアルにテーマの現実性を考えながら研究を進めるプロセスを体験できた.限られた時間の中では思うように実験が進まないことも多く,ハードな実習ではある.しかし,班員と頭を絞って,素直な好奇心に動機付けられた研究テーマを紐解いていくことは何よりも楽しく,研究の魅力を十二分に味わえる.

医学部では知識をインプットする勉強がメインだが,その知識を生かして自由に実習をするのもなかなか身になるものである.リサーチマインドをもって,疑問を追究することを楽しみながら医学にかかわれたら素敵だと思う.また,学生にこのような貴重な機会を提供してくださる先生方のように,ギブする余裕があることはとても豊かなことだと感じる.この場を借りてお礼を申し上げたい.医師免許をどのように使うにせよ,この実習で養われる横断的な思考力はさまざまな場面で役に立つに違いない.

夏の夜道,夕食休憩の帰りに,班員たちと田んぼの横を歩きながら,「素直なふしぎを大事にしたいね」と話し合ったことを思い出す今日この頃である.

磯邉綾菜(京都府立医科大学医学部医学科三年生)

※実験医学2019年2月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2019年2月号 Vol.37 No.3
時間生物学からサーカディアン・メディシンへ
24-hour societyに挑む概日リズム研究のステージチェンジ

八木田和弘/企画
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