[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第115回 これから「博士」になる人へ,進学のためのお金の話

「実験医学2020年1月号掲載」

博士課程への進学に際し,お金は非常に重要な問題だ.進学を悩む多くの人がお金に不安を抱くと思うが,しかし,それは「漠然とした不安」ではないだろうか.本稿では博士の収入源と,それらを最大限に活用し,卒業後の負債を減らすために役立つお金の知識をまとめる.本稿が「お金がない」を理由に博士号を諦めようとしている人にとってわずかでも希望となれば幸いだ.

まず博士の収入源について述べる.多く利用されるのは各大学の授業料免除と日本学生支援機構(JASSO)の第一種奨学金(無利子,貸与型)だろう.JASSOの第一種奨学金には返還免除内定制や,修了時にも返還免除(全額・半額)を申請できる制度がある.一方で民間奨学金には給付型もあるが,所属大学や学年,研究分野などの応募条件が限定されていることが多い.大学の事務で奨学金の種類や学内推薦の有無,例年の採用率などを問い合わせるとよい.

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これらの申請には収入を申告することが多く,扶養に入っていると両親の収入も含まれるのが一般的だ.ただし,JASSOは大学院生だと学生本人の収入のみだ.なお,両親の金銭的援助を受けず自活したいなら扶養から抜けることを役所に相談するとよい.実際に筆者の一人は奨学金と貯金に加え年間20~90万円の収入で自活し,扶養から抜けている.また,博士だと収入よりも個人の能力が採用に重視される制度も意外と多く,月に約20万円得られることもある.最も知られるのは日本学術振興会の特別研究員だ.十分な収入に加えて研究費も得られるが,それゆえに競争率が高く採択率は約20%だ.他にもRA(research assistant)雇用や大学独自の奨学金,リーディング大学院などの制度がある.

実際にはこれらを組合わせて生計を立てる博士が多いため,税金等は制度をうまく利用すると軽減できることがある.ここでは国民健康保険と住民税を紹介する.どちらも前年の1~12月の所得で保険料あるいは納付額が決定し,金額は市区町村により異なる.減額や減免制度もあり,筆者の経験だが,収入が極端に少ない場合や前年よりも激減する場合には負担が大きく減る可能性がある.なお,両親が会社勤めの場合は扶養に入ることで保険料が少なくなることがある.また,学生は年収130万円以上から納税義務が生じて扶養からも抜ける(勤労学生控除を申請した場合).扶養のよし悪しは利用する大学の制度も含めて総合的に判断する必要がある.

そして未来のために国民年金にも触れる.多くの人が学生納付特例を申請していると思うが,これは支払いが免除されるのではない.10年以内に在学中の納付分を追納しないと将来の年金受給額が少なくなる.また,未払いで学生納付特例を申請していない場合は未納となり追納できず,将来65歳になっても数年間は年金を受給できない.ちなみに会社員は国民年金に加えて厚生年金にも加入するのが一般的で,つまり,学生(国民年金のみ)の期間が長いほど将来の年金受給額が少ない.20~30代の総収入が低い博士は定年後も考慮した長期的な人生設計が大切だ.

以上は筆者らの経験や独自の調査に基づいたことであり,法律改正等により制度が変動することにも留意してほしい.また各種制度の条件は複雑で,手続きに書類がいくつも必要なことも多く,進学の1年半以上前から準備を要する場合や指導教員の手助け(申請書作成,推薦書など)が必要なことも珍しくない.博士課程への進学を少しでも考えるなら早めの行動を強くお勧めする.本稿からお金の正しい情報と知識をもつ重要性を感じてもらえればと思う.

川出野絵,三田村学歩(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2020年1月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2020年1月号 Vol.38 No.1
iPS細胞のいま
基盤となるサイエンスと創薬・医療現場への道しるべ

山中伸弥/企画
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