[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第126回 この小説を読んで博士課程に行こうと思いました

「実験医学2020年12月号掲載」

本稿のタイトルのように大学院生に言われたことがある.これから述べる『研究と創作活動』というテーマについては,おそらくこの言葉にすべてが集約しているのではないだろうか.

私は,研究の傍らに小説を書いているが,それほど古い趣味ではなく,2015年頃に京都大学(当時)と愛知教育大学の友人たちとしていた雑談のなかで「研究費がなくて苦しんでる研究者のライトノベルを書いたらおもしろいのでは」という話になって,はじめてweb小説投稿サイトに登録し,執筆をはじめたのである.この作品『魔法大学院第三呪術研究室には研究費がない』は,幸い多くの反響をいただいて,その後の執筆活動の継続につながった※1.この際に使ったweb小説投稿サイトは,私のようなこれまで小説を書いたことがなかった層への間口を開いたという意味では,とても大きな功績があると思っている.

さて,本題の創作活動が研究とどのように関連するかという点については,以前,『異世界分子生物学会』※2にも述べたので,それを引用したい.

“多くの研究者の皆様は,このような取り組みを笑うかもしれません.あるいは怒り出す人もいるでしょう.しかし,かつてわれわれは等しく子どもであり,規模の大小はあったとしても,漫画やアニメ,小説,絵本,映画など,さまざまなSFやFantasyから夢を与えてもらったはずです.であるなら,今度は反対に分子生物学からSFやFantasyにインスピレーションを与えるような活動もあってよいのではないでしょうか? このような取り組みで最も有名なのは,米国のゾンビ・リサーチ・ソサイエティという活動で『ゾンビでわかる神経科学』(太田出版)にもまとめられています.私はこのようなエキサイティングな活動が日本にも広がることを願ってこの活動をはじめました.”

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「科研費獲得の方法とコツ 改訂第7版」

この『異世界分子生物学会』は「架空の世界である異世界の生物や現象を,分子生物学的手法で研究したとしたら,どのような学会発表になるか」ということを,研究者と一般の方が一緒になって考えて,それらを本物の学会要旨集のようにまとめ,同人誌として発行したものである.私が創作活動と研究の“つながり”と考えていることは,この文章と活動によくまとまっている.

アウトリーチ(市民への科学成果の啓蒙活動)の一環として,小説,漫画,テレビ,映画などがはたす役割はとても大きく,これを活用しない手はない.これまでも映画やテレビドラマの監修や原案でライフサイエンスの研究者がかかわることは確かにあっただろうが,それでは生産される絶対数が少なすぎるし,やはり研究者自身がこのような娯楽作品を生み出していく必要があるのではないかと考えている.

その点で,前述のweb小説投稿サイトは,投稿の敷居が低く,またオープンアクセスであるため,研究者の作品投稿のための強力なツールとなるだろう.例えば,現役の研究者が執筆し,このようなweb小説投稿サイトを経て商業出版された作品である『異世界薬局』※3は,薬学領域での知見を盛り込んだファンタジー作品で,幅広い読者に強く科学の魅力を発信し続けている.以前,この作者の方がSNS上で書いていたことであるが,「この作品を読んで大学院に進学しました」というファンの言葉は,アウトリーチの最高の成功例であることは間違いない.私の作品についても,数は少ないが,このようなファンレターをいただくことがあり,これが創作活動をこれからも続けようという原動力になっている.

この小さなコラムを読んでるあなたも,小説,書いてみませんか?

  1. ※1「カクヨムの小説ページ
  2. ※2「第2回 異世界分子生物学会年会
  3. ※3「高山理図,異世界薬局,MFブックス

西園啓文(マックスプランクフロリダ精神科学研究所,ペンネーム:トクロンティヌス)

※実験医学2020年12月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2020年12月号 Vol.38 No.19
イムノメタボリズムとT細胞の疲弊・老化
免疫機能不全を克服する新たなターゲット

山下政克/企画
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