本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
研究経歴を人に知ってもらいたいとき,皆さまはどうされているだろうか.所属研究室のホームページ(HP)を紹介したり,履歴書(CV)をメールで送付したりする方が多いと思うが,本稿では自分自身を紹介する個人HPの可能性を考えてみたい.われわれは大学院生の頃から個人HPをつくっており,論文業績や受賞歴をまとめている.CVには書ききれない研究背景や,研究と少し離れた活動の情報も掲載でき,業績以外の能力も同時に伝えられるのが,個人HPの楽しいところだ.
これが意外な仕事につながることもある.われわれの経験を記すと,趣味のイラストを見た方から教科書への挿絵寄稿を頼まれたり,文章を読んだ方から講演・インタビュー・書籍の監修などの依頼を受けたり,さらには共同研究やポストへの誘いが届くきっかけとしていただいたこともあった.個人HPは研究者以外の方の目に触れる機会もあるため,自身の研究を易しく伝える訓練にもなる.業績をまとめておくと,申請書を作成する際に見返しやすいこともメリットだ.まだ業績が少ないという方も,個人HPをとりあえずつくってみると,そこに載せる業績を増やしたいという思い自体が研究の原動力になるかもしれない.
すでに所属研究室のHPに個人ページがある方にとっても,卒業や就職で所属が変わることを考えると,個人HPをつくる重要性は高い.研究室と関係のないスキルや趣味をあわせて記載することで,研究室を通してではなく,あなた個人に仕事の連絡が来る可能性が高まる.そうして得た成果をさらに個人HPに蓄積していけば,その人単体で評価されるようになる.また,Twitterなど素早い情報伝達に特化したSNSをすでに使っているという方は,個人HPの更新をSNSで知らせるなど双方を相補的に用いると,さらに存在感を高められるだろう.
個人HPはハードルが高いと感じる方は,まずはresearchmapやResearchGateなど,研究者用のポータルサイトをはじめてみることを勧める.個人HPに比べれば自由度は下がるが,業績・経歴・研究キーワードなどを,フォーマットに従って簡単に登録することができる.最近,researchmapは科研費審査で参照できるようになり,国内最大級の研究者データベースとして注目されている.また,ResearchGateは論文や研究データを公開する研究者が増え,世界的に利用されはじめている.ポータルサイトに個人HPへのリンクを貼るのも1つの手だ.
そういったポータルサイトと比べても,個人HPをつくるのはそれほど難しいものではない.特にAmeba Ownd,Tumblr,WordPress,Wix,Jimdoなど,テンプレートやプラグインが存在するウェブサイト作成サービスを使えば,サイト構築の知識がなくても,気軽に個人HPをはじめることができる.どのようなページに何を書くか,それさえ考えておけば,あとは情報を検索して枠組みを選択して組合わせるだけで概ね完成である.自分の好きな形で自らをアピールできるため,分野の異なる相手が見てもわかりやすいよう業績を説明できるのが魅力の1つだ.ちなみに,われわれはそれぞれAmeba Ownd,Tumblrを用いてHPを作成しているので,興味がある方はアクセスしてみてほしい※.
個人HPをもつことは,分野や言語の壁を超える強力な手段になりうる.自分の知らない分野の人が自分の研究に興味をもつ可能性を飛躍的に高められるうえ,仮に日本語で書かれたページでも,自動翻訳でさまざまな国の人に見てもらえる可能性がある.個人HPは単なる趣味の領域ではなく,研究業界の構造を根本から変える1つの鍵なのである.皆さまもぜひ,個人HPの作成をはじめてみてはいかがだろうか.
三田真理恵,宮本道人(生化学若い研究者の会,キュベット委員会)
※実験医学2021年7月号より転載