[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第132回 中高生研究者の“伴走者”として生きる博士

「実験医学2021年6月号掲載」

「中学生・高校生が大学院生に負けず劣らずの研究発表をしている」と書いたら大袈裟だと言われるかもしれない.しかし最近の学会では,中高生のための発表セッションが設けられたり,彼らがメインでプレゼンする学会が開かれていたりする.そうした活動を知ったのは,2019年の冬に中高生のための学会「サイエンスキャッスル(リバネス社主催)」を見学したときだ.自ら興味を持ち,課題に感じたことを研究する中高生を間近で見たとき,「こんな中高生がいるのか」と衝撃を受けた.しかも指示された実験をこなすだけでなく,自分でプログラムを組み,実験装置を自作し,疑問を解決するため大学の教員と直接議論したりする.自分の「これ知りたい」を突き詰めるため試行錯誤する姿に,当時大学院生ながら「私も負けてられない」と刺激された.同時に,生徒が研究活動にかかわる時期が早まってきていることを実感した.それに伴い彼らが研究プレゼンをする機会も増えているが,その指導体制は十分とは言えず,「伝わりやすい発表の方法を学校では教えてもらわない」「よいプレゼンの基準が何かわからない」といった声が生徒から聞かれた.

そこで博士課程での学会発表経験を活用し,中高生と「伝わりやすいプレゼンとは何か」を考えたいと感じた.“博士は研究室で論文執筆に集中するのが本業”という意識もあったが,研究室を飛び出し,自分が中高生の研究教育の場でどのような価値を発揮できるか試したかった.そこで,「ポスター・スライドを使った研究発表」「研究費獲得のための申請書作成」をテーマにセミナーを企画,テキストを作成し,中高生とその指導にあたる先生を対象に開催した.こうしたセミナーの経験は少なく,満足のいく内容になるか心配だった.しかし議論するうちに,彼らの「自分だけの発見を伝え,周りから意見をもらって研究を進めたい」という気持ちが強く感じられ,「こういう工夫すると伝わりやすくなるよね」「伝わりやすい発表ができるとこんないいことあるよね」などを自分の発表経験をもとに生徒と一緒に議論することができた.セミナーの満足度も高く,今後も継続して活動する予定だ.ここで研究プレゼンのヒントを掴んだ中高生が,いずれ大学や大学院で活躍することになれば幸いである.

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「科研費獲得の方法とコツ 改訂第7版」

このように,中高生の研究活動に寄り添い,伴走してくれる博士の存在は生徒にとって大きいと感じる.最近では,オンラインベースで中高生の研究活動のアドバイザーをする博士もいる.こうした活動を通して私たちが学ぶことも多い.私の場合,セミナーのテキスト作成のために自分のプレゼンを分析し見つめ直したり,中高生が研究者に憧れる姿に触れて自分の動機を問い直したりすることができた.何より,限られた時間で生徒の発表の論理性を確認し修正を手助けすることは,自分が学生を指導する立場になったときに行うことと同様だ.最初は中高生のために,と思ってはじめた活動だったが,回り回って自分の成長のきっかけになったと感じている.

しかし,大学院生やポスドクが実験や論文執筆と並行して研究室外での活動も行うには少なからず労力がかかる.私は平日の夜遅くか日曜日の空き時間にセミナーの準備を進めることにしていたが,前述したように,「博士は論文を書く作業に自分の持つ全ての時間を集中させるべき」という感想を持つ方もいると思う.しかし,周りがかざす「博士は〇〇であるべき・こう過ごすべき」論を必ずしも自分に当てはめる必要はなく,自分が博士としての価値をどのように発揮し活躍できるかは自分のやり方で自由に見つけたいと思う.そのために,論文執筆も,研究室外での活動も引き続き全力で楽しんでいきたい.

  1. 中高生のための学会「サイエンスキャッスル」
  2. 昨年開催した中高生のための研究プレゼンセミナー

大西真駿(大阪大学 大学院生命機能研究科 ミトコンドリア動態学研究室)

※実験医学2021年6月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2021年6月号 Vol.39 No.9
精神疾患の病因は脳だけじゃなかった
全身性の代謝・炎症から腸内細菌、プロテオスタシスの影響まで

友田利文/企画
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