本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
私は,現在生命科学の膨大な公共データベースから効率よく情報を抽出し,新しい発見をめざす研究を行っています.右も左もわからないなかはじまった研究生活も1年が過ぎようとしており,修士課程大学院生活の1年目において役に立ったと感じたいくつかのツールの紹介をさせていただきます.
論文執筆の際の参考文献一覧の作成に役立つ論文管理ツールです.特に便利な点としては,さまざまなブラウザやアプリ,プログラムにおけるプラグインが用意されていることかと思います.個人的にはGoogle ChromeとWordのプラグインを利用していました.Google Chromeで開いた論文をブラウザ上のボタンクリック2回でZoteroアプリに追加することができ,追加された論文はWord内で簡単に参考文献として追加できます.参考文献追加の際のフォーマットの設定についてはさまざまな論文誌の様式が用意されているので,投稿予定の論文誌を選択します.参考文献の順番も自動で整理してくれます.Zoteroの使用により,自分が以前想像していたよりもはるかに迅速に参考文献一覧をつくり上げることができました.
ブラウザ上で手軽に遺伝子リストのエンリッチメント解析ができるツールです.個人的には,ヒト培養細胞にて発現変動した遺伝子リストのエンリッチメント解析のために活用させていただきました.Metascapeではモデル生物10種類について解析基盤が整っており,遺伝子リストのアップロード,解析する生物種の選択,という2つのステップのみで,約数分のうちに解析結果を取得することができたいへん効率的でした.機能タームの情報源としてはGene Ontology(GO)が最も有名かと思いますが,GO以外の複数の情報源(Reactome,KEGG,wikipathwaysなど)に対して横断的にエンリッチメント解析を行ってくれます.類似している他ツール(DAVIDやEnrichrなど)は未使用のため比較はできていませんが,少なくともヒトデータについてMetascapeはとても便利なツールだったと考えています.
ツール学習の観点:TogoTVでは生命科学に関する多様な動画をはじめとしたコンテンツがアップロードされており,Gmailなどの基礎的なツールの使い方から,PrimeDesign(ゲノム編集技術であるPrime Editingの設計ツール)などのマニアックなツールの使い方やさまざまな講演動画までが揃っています.例えば前述で紹介させていただいたZoteroやMetascapeの使い方もTogoTV1)2)で公開されており,修士課程1年目の自分としてはこのようなわかりやすい動画から多くを学びました.
動画作成の観点:自分はアルバイトとしてTogoTVのコンテンツである動画作成にも携わらせていただいています.2021年1月からスタートして11個の動画を作成しました.今後作成予定の動画案一覧から自分の興味のあるものを選び,研究の合間などに自分のペースで動画作成を進めることができます.動画を作成する際にはもちろんそのコンテンツについて精通している必要があるために,担当するツールに関する知識がつきました.さらには,どうしたら初学者に伝わるように動画作成すればよいかということを考える機会にもなり,表現力も向上したと考えています.
以上が初学者である自分にとって昨年特に助けられたツールのベスト3になります.研究生活が長い方にとっては当然すぎることだったかもしれませんが,去年の私のような初学者の方々に少しでもこの記事が役に立つことを願っています.
鈴木貴之(広島大学大学院統合生命科学研究科)
※実験医学2022年6月号より転載