[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第170回 SNSを活用した論文紹介のすゝめ

「実験医学2024年8月号掲載」

インターネットが科学の発展を加速させたことは言うまでもない.昨今では,social networking service(SNS)も科学の発展の加速に大きく貢献している.特に140字以内の投稿を全世界に発信するTwitter(現X)は,今や国内外のさまざまな研究者や機関が利用しており,日夜議論が繰り広げられている.それも相まって,最近ではXが研究のアイデア共有の場1)や留学のきっかけづくり2)に利用される例も見かけられる.今回はアカデミアにおけるSNS活用法のなかでも「論文紹介」を提案させていただきたい.筆者は,自身が博士課程2年であった約3年前からSNS上で論文紹介を続けてきた.ある決まった時間に通読した論文の内容を要約して投稿することを習慣として,本稿の執筆時点で約900本の論文を紹介してきた.本稿では,筆者がSNS上で論文紹介に取り組む過程で学んできたことを少しでも共有したい.

始めたきっかけ

そもそもSNS上で論文紹介を始めたきっかけは,当時読んでいた樺沢紫苑氏のベストセラー『学び効率が最大化するインプット大全』(サンクチュアリ出版,2019)にある.当書で紹介されていたインプットの基本法則である,「知識を効率的に定着させるには,アウトプットを前提としてインプットすること」という内容が目に留まり,これを何か自分にも応用できないかと思い至ったのだ.当時,私は博士の学位取得に向けた論文執筆作業に追われており,ちょうど論文の知識を効率よく定着させたいと考えていた.その解決の糸口として,前書の内容も踏まえ,SNS上で論文紹介を始めてみることにしたのだ.媒体として自身のPC上の記録(Word)やブログ(note)ではなくSNS(X,当時はTwitter)を選んだ理由は,1件あたりの文字数が少ない(少なくせざるを得ない)ため続けるうえで負担が少ないこと,多くの方の目に触れるためフィードバックを受ける機会が多く,なおかつ辞めにくい状況をつくりだせることなどがあげられる.

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論文紹介で得られたこと

始めた当初こそ続けることが苦痛に感じられたものの,2〜3カ月も経てば日常の一部となり,論文を読まない日の方がむしろ非日常と感じるようになった.その段階でまず実感できたことは,執筆のスピードが上がったことだ.いくつも論文を読んでいると,どこに何をどう書くかという,論文のお作法のようなものが感覚としてわかるようになってきた.加えて,雑誌ごとに求められるインパクトやデータの質と量などもある程度見えてくるため,自分の今のデータセットではどのレベルの論文に仕上がるかを見極めることにも役立った.

次に,他分野の論文に多く触れる機会をつくることができた.始めた当初は自身の関連分野の論文を中心的に取り扱ってきたものの,毎日紹介を続けているとそれだけでは足りないため,他分野の論文も読まざるを得なくなる.隣の芝生を覗いてみるとおもしろいもので,自身の分野にとっては新鮮な手法や概念が他分野では常識的に使われている例が散見された.それらを自身の研究で試したり,引用として取り入れるきっかけにもなった.また,SNSというオープンな場で発信を続けていると,私のことを認知していただけることが幾度かあり,SNS上や学会でお声掛けいただけることにもつながった.

私にとってSNSを通じた論文紹介は,論文を読む能力のみならず,研究および執筆能力の向上や,人脈形成のうえで非常に有意義であったと感じている.本稿で紹介したSNSを活用した論文紹介を1つの勉強方法として参考にしていただけると幸いである.

文献

  1. Callaway E:Nature, 604:234-238(2022)
  2. 加藤孝郁:生物物理,61:277-278(2021)

高橋大地(岡山大学 日本学術振興会特別研究員PD/生物物理若手の会会長)

※実験医学2024年8月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2024年8月号 Vol.42 No.13
ストレス応答と相分離
環境感知・応答システムの新機構とその破綻による疾患

武川睦寛/企画
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