実験医学 2006年12月号 Vol.24 No.19

新たな治療標的につながる

発癌と転移・浸潤のメカニズム

  • 田矢洋一/企画
  • 2006年11月20日発行
  • B5判
  • 123ページ
  • ISBN 978-4-7581-0118-9
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》癌に関係した遺伝子は多数がクローニングされてそれらのタンパク質の生理機能の解明も進み,今では発癌のメカニズムは70%くらい説明できるといっても過言でないところまで進んだ.しかし,それでも,まだまだ予想もしなかった方向に研究が展開しつつある.本特集はこの数年間に予想外の展開をみせている研究を主に紹介する.

癌抑制遺伝子p53の新たな役割から癌細胞の転移・浸潤を司るチロシンキナーゼの働き,発癌の原因となるウイルスの制御機構,さらに今注目の癌幹細胞まで,新たな展開をみせる最新の癌研究を第一線の研究者が解説.

目次

特集

新たな治療標的につながる
発癌と転移・浸潤のメカニズム
企画/田矢洋一
概論〜新しい展開をみせる発癌メカニズム研究【田矢洋一】
癌に関係した遺伝子は多数がクローニングされてそれらのタンパク質の生理機能の解明も進み,今では発癌のメカニズムは70%くらい説明できるといっても過言でないところまで進んだ.しかし,それでも,まだまだ予想もしなかった方向に研究が展開しつつある.本特集はこの数年間に予想外の展開をみせている研究を主に紹介する.
p53研究の思わぬ展開:細胞運動,エンドサイトーシスやエクソソーム分泌の制御【田矢洋一】
p53は転写因子であり,さまざまな遺伝子の発現を誘導することによってG1停止※やアポトーシスなどの現象を引き起こす.われわれはp53のSer46 のリン酸化を研究する過程で,エンドサイトーシスに重要な役割を演じるクラスリンの重鎖が5%くらい核内にも存在してp53依存性転写に必須の機能をもつという予想外のことを発見した.この研究を進めるなかで,p53が逆に細胞膜周辺にも存在してエンドサイトーシスや細胞運動の制御にも関与するらしいという証拠を得た.これは他の研究室で最近得られつつある結果とも一致する.したがってp53は癌細胞の増殖と浸潤・転移の両方の本質に深く関与するらしい.
癌治療薬の新たな標的:p600【中谷喜洋/Karl Munger】
正常な上皮細胞は足場をなくすとアポトーシスで死ぬ.一方,癌細胞ではこの制御が消失しており,足場非依存性に生存,増殖することが可能となる.この性質のため,癌細胞は浸潤や転移を起こし,生命を脅かすようになる.最近,癌細胞が足場非依存的に増殖するためには,p600とよばれる因子が必須であることがわかった.in vitroで癌細胞内のp600を減少させると,もはや足場非依存的な増殖ができなくなり,アポトーシスを起こすようになる.この性質のため,p600は癌治療薬の新たな標的となりうると期待される.
癌の浸潤・転移をコントロールするSrcキナーゼ基質群の役割【堺 隆一】
腫瘍の転移・浸潤の過程で多くのチロシンキナーゼの発現上昇や活性化が認められている.正常の制御を逸脱したチロシンキナーゼ活性の上昇は,種々の基質タンパク質のチロシンリン酸化を介したシグナルにより腫瘍に転移・浸潤にかかわる特性を賦与していると考えられる.われわれは以前よりSrcファミリーキナーゼの基質として細胞癌化や転移にかかわるチロシンリン酸化タンパク質群の解析を進めている.これらのタンパク質は腫瘍特性を特異的に抑制する標的分子の候補として有望であるが,手法上の限界もあり最近の質量分析機の高性能化に伴ってはじめてみえてきた部分もある.転移・浸潤関連のチロシンリン酸化タンパク質に関する最近の知見は膨大であり,本稿ではSrcファミリー基質群の機能にスポットをあてて紹介する.
シクロフィリン阻害剤によるC型肝炎ウイルスの排除【渡士幸一】
本邦における肝癌の7割以上はC型肝炎ウイルス(HCV)の感染を原因とすることから,HCVの排除は大きな社会的,公衆衛生上の問題である.しかしながら現在主に用いられているインターフェロンを主体とした抗HCV療法では,約半数の患者から最終的にHCVが排除されないため,これに代わる新しい抗HCV戦略が求められている.われわれは近年ケミカルバイオロジー的手法を用いて,シクロスポリンをはじめとするシクロフィリン(CyP)阻害剤がHCVゲノム複製を抑制することを明らかとした.HCVゲノム複製の主役を担うウイルス性ポリメラーゼNS5Bは宿主細胞の CyPBを利用して効率のよいHCV複製を可能とするが,CyP阻害剤はこの機構を阻害するために抗HCV作用をもつ.本稿ではウイルスと宿主細胞とのかかわり,これを阻害することによる抗ウイルス療法の可能性について紹介する.
解明が進むヒトパピローマウイルスによる子宮頸癌の発症機構 〜E6,E7癌タンパク質の新規機能【温川恭至/清野 透】
子宮頸癌発生の原因ウイルスとして,ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)が同定されて20年以上が経過した.90%以上の子宮頸癌では16型など一群のHPVがコードするE6,E7が癌細胞で発現しており,それぞれp53,RB癌抑制遺伝子産物を不活化していることが明らかになっている.E6にはテロメラーゼを活性化する機能も備わっており,E6とE7は共同してヒト初代上皮細胞を高率に不死化することができる.E6とE7の発現のみでは細胞は癌化しないが,E6,E7は細胞の不死化から癌化に至る多くの過程に関与していると考えられている.本稿では,最近明らかになったE6,E7の機能を紹介するとともに,HPV被感染細胞が子宮頸癌へと進行する機構について考察したい.
癌幹細胞の実体に迫る〜解明が進む起源と維持のメカニズム【平尾 敦】
組織幹細胞は階層構造の頂点に立ち,多系統にわたる分化細胞を生みだすとともに,幹細胞自身をつくりだす自己複製能をもつ.最近,癌組織が,このような正常の幹細胞システムに似た階層構造によって成り立っているという“癌幹細胞”という概念が注目を浴びている.正常組織幹細胞研究の過程で開発された細胞の分離,培養および移植技術によって,癌幹細胞が特定されてきた.癌幹細胞は,癌根治のための治療の本質的な標的であると考えられ,その発生・維持制御メカニズムの解明が待たれる.

トピックス

カレントトピックス
癌抑制遺伝子群の新たな神経機能—ニューロンの受容領域を維持・管理する分子メカニズム【榎本和生】
Plk1標的タンパク質KizunaによるM期中心体の安定化【押森直木/大杉美穂/山本 雅】
IRE1による膵β細胞でのインスリン生合成の制御【浦野文彦】
News & Hot Paper Digest
ノーベル化学賞:分子レベルで遺伝子転写機構を解明【高木雄一郎】
本年度のノーベル医学生理学賞はRNAiの「トリガー」の発見者に【泊 幸秀】
核外輸送の裏ワザ【中川真一】
樹状細胞の骨髄と胸腺へのホーミング〜局所での見張り役の知られざるグローバルな役割【島岡 要】
抗癌剤治療の場へのp53の警告【畠山鎮次】
フリードライヒ失調症とヒストンコード異常【澤田潤一】
肝再生時におけるカベオリンの新たな役割【神崎 展】

連載

Update Review
第二次大規模ゲノムシークエンスの予兆【服部正平】
クローズアップ実験法
神経細胞選択的なHIV由来レンチウイルスベクターの作製法【平井宏和】
研究者のためのイラスト実践講座
第5回 小胞体,ゴルジ体,分泌顆粒を描く【秋月由紀】
疾患解明Overview
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の新展開【永井厚志】
私が名付けた遺伝子
第24回 RCC1〜Ranサイクルの司令塔〜【西本毅治】
ラボレポート−独立編−
自分の可能性を信じて〜Vanderbilt University School of Medicine【久米 努】

関連情報

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