実験医学 2017年7月号 Vol.35 No.11

ユビキチン化を介したオルガネロファジー

不要なオルガネラを認識・分解するオートファジー

  • 松田憲之/企画
  • 2017年06月20日発行
  • B5判
  • 141ページ
  • ISBN 978-4-7581-0165-3
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

オルガネラは細胞の生存に重要な役割を担っている.その一方で機能不全に陥ったオルガネラや損傷を受けたオルガネラは時に細胞の生存に負の働きをもたらすことがある.そこで細胞は,それらを正常なオルガネラから隔離して分解するしくみを有している.また,必ずしも異常なオルガネラではなくても,機能的必要性やエネルギー要求性に応じてオルガネラの数を調節するために,正常オルガネラの一部を分解することもある.つまり細胞,ひいては個体の生存には,オルガネラの質と量の両方を厳しく管理することが必須である.余剰なオルガネラや機能の低下したオルガネラは,選択的なオートファジーによって分解処理されるが,その際にユビキチンが“分解すべきオルガネラを選択するシグナル”として機能することが解ってきた.本稿では特に「何がオルガネラ品質管理における選別の引き金なのか」「何がユビキチン化を行う因子なのか」「何がユビキチン化を認識してオートファジー分解に導くのか」を意識しながら,急激に理解が進みつつあるマイトファジー・ アロファジー・リソファジー・ペキソファジーについて紹介したい.

細胞内の不要なオルガネラを狙って分解する選択的オートファジー.不良ミトコンドリアやリソソーム,細菌などをどのように認識して分解に導くのか.細胞が持つその巧みな選択性のメカニズムをご紹介.

目次

特集

ユビキチン化を介したオルガネロファジー
不要なオルガネラを認識・分解するオートファジー
松田憲之/企画
概論―オルガネラユビキチン化とオルガネロファジーー不要なオルガネラはどのように認識・分解されるのか?【松田憲之】
オルガネラは細胞の生存に重要な役割を担っている.その一方で機能不全に陥ったオルガネラや損傷を受けたオルガネラは時に細胞の生存に負の働きをもたらすことがある.そこで細胞は,それらを正常なオルガネラから隔離して分解するしくみを有している.また,必ずしも異常なオルガネラではなくても,機能的必要性やエネルギー要求性に応じてオルガネラの数を調節するために,正常オルガネラの一部を分解することもある.つまり細胞,ひいては個体の生存には,オルガネラの質と量の両方を厳しく管理することが必須である.余剰なオルガネラや機能の低下したオルガネラは,選択的なオートファジーによって分解処理されるが,その際にユビキチンが“分解すべきオルガネラを選択するシグナル”として機能することが解ってきた.本稿では特に「何がオルガネラ品質管理における選別の引き金なのか」「何がユビキチン化を行う因子なのか」「何がユビキチン化を認識してオートファジー分解に導くのか」を意識しながら,急激に理解が進みつつあるマイトファジー・ アロファジー・リソファジー・ペキソファジーについて紹介したい.
マイトファジー:Parkin/PINK1 によるダメージ認識とユビキチン化【山野晃史】
Parkin(ユビキチンを基質に付加する酵素)とPINK1(ミトコンドリアに局在するリン酸化酵素)は遺伝性劣性パーキンソン病の原因遺伝子産物であると同時に,膜電位の低下した不良ミトコンドリアの分解・除去(マイトファジー)に必要である.興味深いことに,不良ミトコンドリアを認識しているのは,オートファジーと並行して細胞内のタンパク質分解を担うユビキチンシステムであることがわかってきた.本稿では近年,飛躍的にその理解が進んだParkinとPINK1のダメージ認識の分子メカニズムを紹介する.
マイトファジー:オートファジーアダプターによるユビキチン鎖の認識機構【松本 弦】
マイトファジーは傷害ミトコンドリアをオートファジーシステムにより選択的に細胞内から除去するための分子機構であり,その制御は①膜電位を失った不良ミトコンドリアの認識,②排除の対象となるミトコンドリアの標識,③標識されたミトコンドリアのオートファゴソームでの選択的な取り込み,④リソソームでの分解,の多段階で行われている.哺乳類細胞におけるマイトファジーの研究はここ数年で飛躍的に理解が深まったが,本稿では③のうち特にPINK1/Parkinによりポリユビキチン化された不良ミトコンドリアが,どのようにして選択的にオートファゴソームへ取り込まれるのかという問題を中心に解説する.
マイトファジー:オートファゴソーム・リソソーム形成機構【関根史織】
ここ数年で,PINK1による損傷ミトコンドリアの感知からParkinの活性化に至るまで,PINK1/Parkin系マイトファジーの上流機構の詳細が次々と明らかとなった.加えて,PINK1/Parkinの下流で,どのように損傷ミトコンドリアの選択的な消化が進行するのか,そのしくみについても解明が進んでいる.本稿では,PINK1/Parkin系マイトファジーにおける下流機構,オートファゴソーム・リソソーム形成機構を中心に,最近の報告を解説したい.
アロファジー:父性オルガネラを分解する新たなオートファジーと母性遺伝【佐藤 健,佐藤美由紀】
受精によって卵子と精子が融合するとそれぞれの細胞質成分がミックスされるが,精子由来の父性ミトコンドリア等は選択的に分解されることが明らかとなりつつある.特に線虫においては,選択的オートファジーによって父性ミトコンドリアが分解されること,またこの分解がミトコンドリアDNAの母性遺伝に必須であることが明らかとなっている.本稿では,この非自己由来のオルガネラ分解であるアロファジーを中心に,動物における父性オルガネラの選択的分解メカニズムとユビキチン化の関連について,最新の知見を紹介する.
リソファジー:TRIM によるダメージ認識とユビキチン化【木村友則】
損傷を受けたリソソームは,細胞を強く障害しつつ炎症反応を惹起する.そのような損傷リソソームはリソファジーとよばれる選択性オートファジーによって除去される.最近,リソファジーの制御にTRIMタンパク質のもつ損傷リソソーム認識機構とユビキチン化能が働いていることが判明してきた.一方で,TRIMタンパク質はオートファジーを利用してリーダーレスタンパク質の分泌に関与している.本稿ではリソファジーの疾患との関連や分子機構とTRIMタンパク質が果たす役割について概説する.
ペキソファジー:ペルオキシソームの形成・機能制御と分解機構【藤木幸夫,山下俊一,奥本寛治,本庄雅則】
ペルオキシソームは多くの代謝機能を有する生体に必須なオルガネラである.近年のペルオキシソーム形成に必須な多数のペルオキシン遺伝子(PEX)のクローニングと機能解析の飛躍的な進展により,ペルオキシソーム欠損症の全病因PEX遺伝子の解明,ついで,ペルオキシソーム形成機構の概要が明らかになりつつある.ここでは,哺乳類ペルオキシソーム研究における最新の知見を紹介するとともに,オルガネラ恒常性維持に重要な役割を担うペルオキシソーム特異的分解(ペキソファジー)について解説する.

連載

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新たな“空腹シグナル”としての核酸ウリジン【佐々木 努】
ヒト遺伝子ノックアウト研究のはじまり?【中山一大】
DNA複製終結反応に必要なユビキチンリガーゼとp97複合体【鐘巻将人】
タンパク質の品質管理と寿命決定ーCHIPによるインスリン受容体の恒常性制御【神﨑 展】
ゲノム編集医療のルール作りがはじまる【石井哲也】
カレントトピックス
ロタウイルスにおけるリバースジェネティクス法の確立【金井祐太,小林 剛】
生殖細胞の発生と腫瘍化抑制に働く新たなmRNA制御機構【山路剛史,Markus Hafner,Thomas Tuschl】
抗HIV-1中和抗体を用いた免疫治療の開発【西村佳哲】
一時的な区画化によりレプリケーターRNAの新たな機能は創発しうる【松村茂祥】
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バイオ研究施設の震災対策ー熊本地震における実験動物施設の被災・復旧からのレッスン【中潟直己】
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クローズアップ実験法
タンパク質の糖鎖修飾解析のための前処理法【古川潤一,岩崎倫政,篠原康郎】
予防医学の扉を開く 食品に秘められたサイエンス
食品が育てる腸内フローラーアガロオリゴ糖による腸内環境改善作用【内藤裕二,東村泰希】
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  • 【本書名】実験医学:ユビキチン化を介したオルガネロファジー〜不要なオルガネラを認識・分解するオートファジー
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