レジデントノート:肝機能検査、いつもの読み方を見直そう!〜症例ごとの注目すべきポイントがわかり、正しい解釈と診断ができる
レジデントノート 2018年10月号 Vol.20 No.10

肝機能検査、いつもの読み方を見直そう!

症例ごとの注目すべきポイントがわかり、正しい解釈と診断ができる

  • 木村公則/編
  • 2018年09月10日発行
  • B5判
  • 170ページ
  • ISBN 978-4-7581-1614-5
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

特集にあたって

木村公則
(東京都立駒込病院 肝臓内科 部長)

研修医の頃の苦い経験

筆者が研修医1年目の頃のことですが,今だに思い出す症例があります.急性肝炎の触れ込みで近医から紹介された60歳代の女性の方.薬物性肝障害の診断で,AST,ALTの値がそれぞれ約8,000 U/L,約6,500 U/Lでした.はじめて経験するこんなに高い数値.ビクビクしながら連日肝機能検査を行い,その結果の解釈を勉強する毎日でした.入院3日目にASTが5,000 U/Lに低下し,ピークアウトしたのかと安心していたところ,指導医が形相を変えて来ました.“PT(prothrombin time:プロトロンビン時間)が今日,40%切っているじゃないか! 知っていたのか.意識レベルは?”すかさず,慌てて患者さんのところに指導医と向かうと,昨日と違い様子がおかしい.呼びかけにも反応が鈍いし,flapping(羽ばたき振戦)も出ている.これがはじめて経験した劇症肝炎の症例でした.血漿交換を含めた内科的治療でなんとか回復しましたが,PT値の変動の速さに驚き,また検査の理解の大切さを思い知りました.

肝機能検査の大切さ

今回,主に研修医を対象とした肝障害についての企画依頼を受けた際に,医師になりたての頃に購入した朝倉書店の『内科学』を再度紐解いたところ,当時の検査項目と様相がいくつか異なっていることに気づきました.入院患者さんに対して,当時は必ずZTT(硫酸亜鉛混濁試験),TTT(チモール混濁試験)などの肝機能検査を行っていましたが,現在ではほとんど検査することはありません.LAP(ロイシンアミノペプチターゼ)なども同様です.一方で肝臓領域において最近注目されているのが,日本から開発された新しい肝線維化マーカーであるM2BPGiでしょう.従来は肝生検による病理学的診断により線維化の程度を把握していましたが,全く新しい糖鎖マーカーの開発により血液検査で評価することが可能となりました.また血小板数が肝線維化の程度を示すという報告は簡便さもあり衝撃でした.今後はさらに遺伝子解析技術の進歩やスクリーニング検査費用の低下も相まって,遺伝子検査が疾患の診断や治療方針の決定に必須となることが予想されます.

通常このように肝機能検査1つを例にとっても,変遷の経過をたどることが多いなかで,本特集でも取り上げられているAST,ALT,ALP,γ-GTPの4項目は肝機能検査のキモです.日常診察を行う際にこれらの検査項目はほぼ測定されていると思われ,検査結果の意味するところを理解しておくことは非常に重要であり,肝疾患から胆膵疾患までの幅広い病態の状態把握や治療適応の検討にも不可欠です.また他科の医師や研修医にとって,一番多く経験する肝障害例は脂肪肝などの生活習慣病や薬物性肝障害でしょう.本特集の企画の意図でもありぜひ学んでいただきたいことは,“肝障害がどのレベルになったら肝臓専門医に相談するか”を見極めることです.ひとりであれこれと悩むのではなく的確で素早い判断が必要です.基本的に肝障害は自覚症状に乏しいことが多く,自覚症状が認められる段階ではかなり病状が進行していることが多いためです.

今回の特集では,肝臓病臨床の第一線で活躍されている経験豊富な先生方に執筆していただき,診断に苦労した経験を踏まえて各項目をわかりやすく解説していただきました.よく研修医の方から“肝臓は難しい,肝臓は苦手”という声を聞きますが,読者の皆さんにとって肝障害の診かたが少しでも身近なものになれば本望です.

著者プロフィール

木村公則 Kiminori Kimura
東京都立駒込病院 肝臓内科 部長
専門は肝臓病の臨床および研究,最近では肝硬変治療薬の開発に取り組んでいます.
医学部5年生のときに臨床講義でウイルス性肝炎の授業を聞いて大変感銘を受け,以来一貫して肝臓病の臨床と研究に取り組んでいます.肝臓学に興味のある方はぜひ一緒に仕事しましょう.

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