特集にあたって 救急対応の合間にドリルで頭の整理を!坂本 壮(総合病院国保旭中央病院 救急救命科 医長/臨床研修センター 副センター長) 1研修医が苦手な症候は? 研修医の先生は,救急外来で日々多くの患者さんの初療にかかわっていることでしょう.頭痛や胸痛などの疼痛を訴える患者さん,麻痺やめまいを訴える患者さん,転んで出血や腫れを訴える患者さん,さらには動けない,食事が摂れないなど,それのみではなかなか原因がすぐには想起できない患者さんなど,対応しなければならない訴えは多岐にわたります. 私は,現在数十カ所の病院の研修医の先生と学ぶ機会がありますが,病院によらず研修医が苦手としている症候は一緒です.めまい,意識障害,意識消失,疼痛では胸痛や頭痛という研修医もいますが,何より腹痛が苦手という人が多いでしょう.その他,脱力やしびれ,皮疹関連が代表的です.また,普段見慣れていなければ,小児や妊婦,外傷の初期対応も敬遠しがちです. 今月号では,研修医の先生が苦手な症候を,実際に陥りやすい点を整理しやすいように,症例を通じてドリル形式でまとめました. 2知識はもちろん大切! 救急外来で適切な対応を行うためには,知識だけでなく,さまざまなバイアスの関与を意識することが大切です.全体から見れば知識以外の要因の方がエラーには大きく影響しているといわれます.このことに関しては,2019年10月号の特集「救急でのエラー なぜ起きる? どう防ぐ?」を参照してください.そこでも述べましたが,ERでエラーを起こさないためには大切な5つのことが存在すると考えています(表). しかし,当たり前ですが研修医のうちは知識自体がまだまだ足りないため,最低限理解しておくべきことは頭に叩き込んでおく必要があります.なんでもスマホ1つで調べられる時代となりましたが,頻度の高い症候や疾患,緊急度・重症度が高いものに関してはある程度整理しておかなければ,その場で迅速かつ適切な対応はできません. 苦手な症候が研修医で似通っているのと同じように,研修医が陥るエラーも似通っています.これは多くの研修医とかかわっているとわかるものです.今回の特集では,実際に遭遇する頻度の高い症候を取り上げ,陥りやすいエラーも意識した記載をしているので,目の前に患者さんがいることをイメージして読み進めるとよいでしょう. 3救急外来は学びの宝庫である! 自身が経験した症例を大切にしていますか? 研修医の先生が働く病院の多くは電子カルテを使用していると思います.対応した症例のIDを控えておいて,その後どのような経過を辿ったのか,自分がオーダーした画像の読影所見,培養結果などは必ず確認するようにしましょう. 病院ごとに救急外来における症例数の差は確実にあります.しかしそれはたいした問題ではありません.少ない場合には,経験した症例をより深く学び,同期などと経験した症例を共有し,お互いの経験値を上昇させればよいでしょう.多くてもただただ業務をこなしていては成長できません.すべての症例でなくても,1日◯例など,自身で振り返る症例を決めておくとよいでしょう. また,研修医の先生から,フィードバックをもらえなくて困るというコメントをしばしばもらいます.指導医の多くもまた,学年が上がると自身が研修医のときに悩んでいたことを忘れ,どのようにフィードバックすべきかを日々悩んでいます.研修医から具体的な質問事項を思い切って質問してみましょう.いろいろ聞かれて嫌な顔をする指導医は意外と少ないものです.嫌な顔をされたら,私にいつでも質問を!(笑) おわりに 救急対応はどの科に進もうとも逃れることはできません.しかし,初療において行うべきことは意外とシンプルです.今回のドリルを解きながらそれが伝われば嬉しいです. 今回執筆していただいた先生方はレジデントノートの編集, 研修医向けの書籍や連載などを複数書いています.さらに学びたい方はこちらもぜひ.あ, 私の本もね(笑). 参考文献・もっと学びたい人のために レジデントノート増刊「主訴から攻める! 救急画像(Vol.19-No.5)」(舩越 拓/編),羊土社,2017 「タラスコン救急ポケットブック」(Richard J. Hamilton/原著,舩越 拓,本間洋輔,関 藍/監訳),医学書院,2018 レジデントノート2018年6月号「夜間外来の薬の使い分け(Vol.20-No.4)」(薬師寺泰匡/編),羊土社,2018 「君ならどうする!? ER症例に学ぶ 救急診療の思考プロセス」(薬師寺泰匡/編,EM Alliance教育班/著),日本医事新報社,2017 レジデントノート2018年12月号「出血の診かた もう救急で慌てない!(Vol.20-No.13)」(安藤裕貴/編),羊土社,2018 「内科当直医のためのERのTips」(安藤裕貴/著),三輪書店,2017 J-COSMO連載「小児救急外来ただいま診断中!」(竹井寛和,杉中見和,坂本 壮/著),中外医学社,2019〜 「女性の救急外来 ただいま診断中!」(井上真智子/編,柴田綾子,水谷佳敬/著),中外医学社,2017 J-COSMO連載「ほんまでっか〜!? 目からうろこの女性の診かた」(柴田綾子/著),中外医学社,2019〜 「救急外来 ただいま診断中!」(坂本 壮/著),中外医学社,2015 「ビビらず当直できる 内科救急のオキテ」(坂本 壮/著),医学書院,2017 「あたりまえのことをあたりまえに 救急外来 診療の原則集」(坂本 壮/著),シーニュ,2017 J-COSMO連載「高齢者救急ただいま診断中!」(舩越 拓,安藤裕貴,薬師寺泰匡,坂本 壮/著),中外医学社,2019〜 J-COSMO連載「病棟急変ただいま対応中!〜その場の5分〜」(坂本 壮/著),中外医学社,2019〜 J-COSMO連載「スライド作成 KISS approach」(坂本 壮,安藤裕貴,藤井達也/著),中外医学社,2019〜 著者プロフィール坂本 壮 So Sakamoto総合病院国保旭中央病院 救急救命科 医長/臨床研修センター 副センター長2020年はオリンピックイヤーですが,ミュージカル好きの私にとっては,それ以上に9月10日に開幕する劇団四季最新ミュージカル「アナと雪の女王」が楽しみでしかたありません.仕事を楽しく充実したものにするためには,自身の趣味や息抜きをもつことも大切です.ミュージカル話で盛り上がってくれる方,随時募集中です. 〈著書・編書〉 「J-COSMO」(中外医学社)編集主幹 「救急外来 ただいま診断中!」(中外医学社) 「ビビらず当直できる 内科救急のオキテ」(医学書院) 「あたりまえのことをあたりまえに 救急外来 診療の原則集」(シーニュ) 「jmedmook61 あなたも名医! 意識障害」(日本医事新報社) レジデントノート2017年6月号「急変につながる 危険なサインを見逃すな!」 レジデントノート2018年2月号「『肺炎』を通してあなたの診療を見直そう!」 レジデントノート2019年10月号「救急でのエラー なぜ起きる?どう防ぐ?」 他