レジデントノート:救急外来・ICUでの採血検査〜何がどこまでわかるのか?診療にどう活きるのか?いつも行う検査の選択・解釈の基本を教えます
レジデントノート 2021年2月号 Vol.22 No.16

救急外来・ICUでの採血検査

何がどこまでわかるのか?診療にどう活きるのか?いつも行う検査の選択・解釈の基本を教えます

  • 志馬伸朗/編
  • 2021年01月08日発行
  • B5判
  • 170ページ
  • ISBN 978-4-7581-1656-5
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

特集にあたって

志馬伸朗
(広島大学大学院 医系科学研究科 救急集中治療医学)

本特集のテーマは,採血検査です.患者さんから血を採取して,検査室に運び,処理して検査機器にかけて,一部は検査技師の評価を加えて結果を得,電子カルテに反映されたら解釈し,診断や評価につなげる…これは研修医が毎日ほぼ必ず関与する業務の1つです.

検査のオーダリングは,研修医の主要な仕事です(と,考えられていることが多いです).しかし現場では,オーダリングが案外ぞんざいに扱われていることが多いのではないでしょうか.セット化,ルーチン化が進んでいるからです.これは便利です.時間のない救急外来やICUで,思考する労力と時間を省略してくれます.とりあえず,XXセット,を,ERではすべての患者さんに,ICUでは毎日,マウスのクリックカチカチカチで出しておけばよいということになります.

これらルーチン検査の結果は数分後〜数時間後にカルテの画面に現れます.とりあえず青色と赤色になっている部分をチェックし,プロブレムリストにあげておいて,要フォロー,のコメントを出し,翌日も同じセットをクリックしておけばすんでしまいます.とりあえず毎回,すべてのセットを出しておけば,上級医から“YYの検査がされていない”と,怒られることもありません.研修医の重要任務はこれで完遂のはず,なのですが….

そもそも採血検査は過剰に行われていると考えられてきました.とあるシステマティックレビューでは,過剰な検査は全体の20%に及ぶといいます(案外少ない印象ですが)1).そのようにして行われた結果の“ノイズ”は,偽陽性と偽陰性に伴う追加検査の必要性や診断への不利益につながり,見過ごせません.

代償も少なくありません.検査をオーダーするのはマウスクリックですが,現場には大きな侵襲性と人手,コストがかかります.患者さんは採血に伴い痛みを感じますし,神経損傷リスクもあります.動脈ラインが挿入されていれば痛みはないものの感染リスクが増えます.採血者には,針刺し等血液曝露リスクや労力が生じます.検査者にも労力がかかります.ICUでは包括支払い制のため,検査をすればするほど病院の赤字が増えます.何より問題なのは,オーダーする研修医に,これらの問題点の認識が薄いことです2).確かに,研修開始時のオリエンテーションの数分を除いてこれらの指導を受ける機会は限られているのかもしれません.

また,患者不利益に着目すべきです.例えば,ICUにおける輸血の関連因子の1つは,頻回の採血です3).動脈ラインは留置されていればいるほど過剰な採血と輸血の危険性が増します.逆に,採血を限定する介入により,採血頻度が減り,ICU滞在期間が短縮したとの報告もあります4)

実は検査のしなさすぎも問題となります.検査を行わなかった結果,病状が進行あるいは悪化すれば,より多くの追加検査や介入が発生しえます.

つまり検査は,適切な対象に,適切なものを,適切な頻度で行わなければなりません.そして,適切に利用されなければなりません.測定されたCRPが診断治療に反映された割合は10%強に過ぎないとの報告もあります2).検査は,評価,診断,そして治療につながらなければならないのに,です.近年微生物検査の分野で普及しつつあるdiagnostic stewardship(検査の特性を考え,適切な対象に適切な検査を行うことによる診療支援)の考えを,採血検査においても導入したほうがよいでしょう.ERとICUの採血検査は,適正化の余地があるのです4)

そのためには,ルーチンに行われている検査をよく知ることです.よく知るとは,正常値を記憶するということではありません.それぞれの検査にどのような意義があり,どのような欠点や限界があるのかを見極めることが重要です.なぜALTとAST,ALPとGTP,D-dimerとFDPを毎回同時に測定しないといけないのか,疑問が湧いてくるはずです.

実はこの特集はそこまで踏み込めていないかもしれません.しかし,採血検査の基本,を押さえることからはじめて,一歩進んだ採血検査の使い手になるためにはどうすればよいかを考えるきっかけにしてほしいと思います.くり返しますが,採血検査の適正使用は,研修医に課せられた大きな責務なのです.

引用文献

  • Zhi M, et al:The landscape of inappropriate laboratory testing:a 15-year meta-analysis. PLoS One, 8:e78962, 2013(PMID:24260139)
  • Vrijsen BEL, et al:Inappropriate laboratory testing in internal medicine inpatients:Prevalence, causes and interventions. Ann Med Surg(Lond), 51:48-53, 2020(PMID:32082564)
  • Chant C, et al:Anemia, transfusion, and phlebotomy practices in critically ill patients with prolonged ICU length of stay:a cohort study. Crit Care, 10:R140, 2006(PMID:17002795)
  • Prat G, et al:Impact of clinical guidelines to improve appropriateness of laboratory tests and chest radiographs. Intensive Care Med, 35:1047-1053, 2009(PMID:19221715)

著者プロフィール

志馬伸朗 Nobuaki Shime
広島大学大学院 医系科学研究科 救急集中治療医学
救急集中治療領域の診療には,神の手や,辞書のような知識は必要ない.ただただ基礎的なことを基本に忠実に,時機を逸せずに淡々と行うだけである.しかしそのためには,常に“平静の心”をもち続けることが必要だ.この難しい命題に30年以上向き合っている.生涯達成できないかもしれないが少しずつでも改善したい.そんな思いで今日も現場で,書籍で学び続けている.

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