レジデントノート:輸液ルネサンス〜維持・補正・蘇生の3Rでシンプルに身につく輸液のキホン&臨床実践
レジデントノート 2022年5月号 Vol.24 No.3

輸液ルネサンス

維持・補正・蘇生の3Rでシンプルに身につく輸液のキホン&臨床実践

  • 柴﨑俊一/編
  • 2022年04月08日発行
  • B5判
  • 144ページ
  • ISBN 978-4-7581-1679-4
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

あなたの輸液オーダーを明日から変える!

柴﨑俊一
(ひたちなか総合病院 救急総合内科)

 はじめに

突然ですが,皆さんは輸液のオーダー,自信がありますか? 「自信があるかと言われたら….輸液について何もわかってないわけじゃない…けど,自信があるわけでもないし…」…って? わかります,わかります.その気持ち.私も卒後2~3年目はまさに同じ気持ちでした.輸液って,わかりやすい入門書は実は少ないし,「習うより慣れろ!」みたいに上級医に教えられることも実際多いですよね? では,もう少し輸液を現場目線でリアルに振り返ってみましょう.以下の状況を想像してみてください.

あなたは市中病院で初期研修を始めて,今年で2年目だ.少しずつだがいろいろできることが増えつつあり,やりがいを感じている.現在は内科(総合内科)をローテート中で,簡単な輸液のオーダーは上級医と相談のうえ,出してよいといわれている.そんなあなたの,ある日の病棟の様子.

プルルル…,プルルル….

あなた「はい,内科研修医の○○です」

病棟リーダー看護師「あ,○○先生.404号室の肺炎で入院した鈴木さん,明日の点滴がオーダーないんですけど.出してもらえます? オーダー締め切り時間ギリギリなんですけど!!」

あなた「(しまった! こりゃ上級医に相談してる時間ないな).わかりました.とりあえず出しておきます」

(電子カルテに向かって)

あなた「えぇっと.あの人は,今日朝に入院した小柄なおばあちゃんで,食事は食べられてなかったな.特に気になる既往もなかったな.まぁ,とりあえず3号液500 mLを4本で.絶食だし,24時間のキープペースだな.明日も電話かかってくると面倒だし,ひとまずコピペで数日分出しておくか」

あなたはその後も仕事が立て込んでしまい,結果,上級医に報告が遅れた.肺炎患者の鈴木さんは,その日から夜にトイレに起きることが頻回になった.2日後には,転倒して大腿骨頸部を骨折してしまった.頸部骨折に対して人工骨頭置換術の手術をすることになった.術前の採血をしてみると,Na:124 mEq/Lだった.

 古典理論・慣習を見直してみよう

さて,皆さんは上記の輸液オーダーの何が改善点かわかりますか? 筆者は,大きく「3+1」つの改善点があると考えます.

1:輸液の「量」

25~30 mL/kg/日1)が輸液のトータル水分量の「目安」として知られています.今回は小柄な高齢女性には量が多かったと考えられます.

2:輸液の「種類」

維持輸液の古典的理論は今も継承されていますが,Talbotらの報告2)など1950年代のものです.古典的理論通りの自由水が多い維持輸液は,「急性期」の患者では不適切で医原性低ナトリウム血症を生じやすいとされています.実際,輸液が原因の医原性低ナトリウム血症は入院患者の15~30%との報告もあるくらいです3,4).これは急性期患者のほとんどで抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)が分泌されているからなのですが,その詳細は別稿〔『輸液療法は「3つのR」で分けてみよう』(p.434)〕でまた詳しくお伝えします.今回のケースは筆者なら,3号液ではなく細胞外液を選択します.

3:点滴の時間

「絶食だから24時間で」と慣習的に決めていませんか? 体調が悪くて食欲がなかった皆さん自身の経験を思い出してみてください.食事があまり食べられないからといって,夜も1時間おきに起きて水分補給…なんてしていましたか? 多少の水分補給はあったと思いますが,高度の脱水がないかぎり1時間おきに起きて…なんてことはしていなかったはず.筆者は維持輸液の状況では夜間はルートロックを原則としています.

+1:わすれちゃいけない軌道修正!

「ばっちり輸液オーダーできた!」と思っても,そうは問屋が卸さないのがリアルワールドの輸液.そのため「これで経過順調か」という治療効果判定を薬剤投与後と同じように輸液後でも定期的にフォローすることが大事です.特にこの症例における維持輸液の状況では,水分喪失は急速に進行しませんし,また,水分バランスの適切性は血清Na濃度が目安になるとされています5).数日おきに,血清Na濃度などをみながら輸液の調整を行うことが合理的でしょう.

【私ならこうする! 輸液の投与】
ソルアセト®(500 mL)80 mL/時:メインで投与.8時~,14時~.夜間ロック. セフトリアキソン 1 g+生食100 mL 100 mL/時:速管から投与.8時~,20時~.

 おわりに

どうでしたか? 今回の特集は「輸液オーダーのしかたが全然わからない!」という初期研修医の方,また記事を読んで「なんとなくはわかっているけど,え? このトピックはじめて聞いた…」「輸液について,これを機にアップデートしよう」という専攻医・若手医師の先生などを念頭において企画をスタートしました.「えー,なんか難しそう」という方もご安心ください.症例ベースに「リアルに明日からどう輸液オーダーを変えるか」という実践を最も重視し,読みやすい構成になっています.本特集がきっかけとなり,輸液の医原性の合併症を減らすよう工夫した輸液オーダーができる初期研修医~若手医師の先生が増えれば嬉しいですし,さらに興味をもった方には「エビデンスが今も蓄積されている領域なんだ」「輸液って実は奥が深い」ということを楽しんで感じてもらえると,企画者として最高の喜びです! さあ,従来の入門書から一歩進め,輸液を学び直し,再考する.まさに「輸液ルネサンス」のはじまりです!

【Take Home Massage】
  1. ① 自分の輸液オーダーを見直してみよう
  2. ② 急性期患者の維持輸液に,自由水の多い輸液製剤(低張液)は低ナトリウム血症を生じさせるため向いていない
  3. ③ 従来の入門書から一歩進め,輸液を学び直し,再考する「輸液ルネサンス」を一緒にはじめよう!

引用文献

  • Padhi S, et al:Intravenous fluid therapy for adults in hospital: summary of NICE guidance. BMJ, 347:f7073, 2013(PMID:24326887)
    ↑今回の特集でも手厚くご紹介する,輸液の数少ないガイドラインです.NICE(National Institute for Health and Care Excellence:英国国立医療技術評価機構)より提供されています.従来ありがちな机上の空論ではなく,リアルワールドで生きる輸液の原則論を示してくれています.
  • Talbot NB, et al:Homeostatic limits to safe parenteral fluid therapy. N Engl J Med, 248:1100-1108, 1953(PMID:13054898)
    ↑維持輸液の古典理論の先駆けとなった名著.ただ1950年代の理論ゆえ,現在に使用するには注意.アップデートが必要です.詳細はまた別稿(p.434)で!
  • Upadhyay A, et al:Incidence and prevalence of hyponatremia. Am J Med, 119:S30-S35, 2006(PMID:16843082)
  • Carandang F, et al:Association between maintenance fluid tonicity and hospital-acquired hyponatremia. J Pediatr, 163:1646-1651, 2013(PMID:23998517)
    ↑急性期患者に,古典的な維持輸液の理論に準じて「自由水の多い維持輸液」を使うと低ナトリウム血症が増えて危ないと警鐘を鳴らした報告です.
  • Shafiee MA, et al:How to select optimal maintenance intravenous fluid therapy. QJM, 96:601-610, 2003(PMID:12897346)
    ↑医原性低ナトリウム血症を減らすため,維持輸液では血清Naを適宜みながら輸液調節する,などのコツを紹介してくれています.

著者プロフィール

柴﨑俊一(Shunichi Shibazaki)
ひたちなか総合病院 救急総合内科
腎臓専門医,総合内科専門医
輸液に限らず,初期研修医や若手の先生たちのちょっとした疑問を深堀りして自分でも調べ,一緒に勉強していくのが私の基本スタンスです.その深堀りたるや,あなたも驚く?!

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