特集にあたって 特集にあたって 〜“一歩早く” AKIに対応するために〜 谷澤雅彦(聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科 講師) AKI(acute kidney injury:急性腎障害)はすでに市民権を得たmedical termであると推測します.初期・後期研修医の皆さんは,誰がみてもわかるような血清クレアチニン値の上昇や,明らかな尿量低下を確認してはじめてAKIと覚知し,慌てて腎臓内科にコンサルト,という日常診療を送ってきたかもしれません.しかし実際には,多くのAKIは発症する前から“予兆”が出ており,特に初期・後期研修医の皆さんが力を入れるべき病歴聴取と身体診察で“一歩早く”AKIの予防もしくは発見ができる可能性があります. 本特集ではまず冒頭でAKIの疫学・診断,病歴聴取,身体所見について,そのTipsを解説しています.特にAKIを起こしうるシナリオをよく熟知し予防啓発に努めていただきたく,またそれらを学ぶことで身体所見をしっかりととり予兆があれば即座に対応できるようになると考えています. 次に確定したAKIを覚知したら採血・尿検査所見,画像所見を駆使して原因を探しにいきます.典型的な腎前性・腎性・腎後性による鑑別方法は古今変わっていませんが,昨今では腎前性AKIも体液の“量”の問題なのか体循環あるいは糸球体内の“圧”の問題なのかをより重視するようになっています.尿所見でいわゆる腎前性AKIパターン(FENa低値等)を呈していても,むしろ逆の体液量過剰に伴ううっ血腎であることも稀ではなく,単一の指標だけでは診断することは難しいです.またPOCUS(Point of Care UltraSound)と総称されるベッドサイドでポイントを絞り超音波で観察する診断方法も,身体診察と並びその簡便さと有用性から必須技能とすべきとされています.そこで,AKIが確定された後に,“一歩早く”原因に辿り着けるように,尿・採血所見,画像・モニター管理について続けて解説しています. 治療についてはAKI自体に有効な方法はなく,原因の解除,腎毒性物質の回避,適切な血行動態の維持というconservative managementが中心となります.しかし,AKIは急性疾患かつ生命予後に直結する重要合併症であるがゆえ,必要があればタイミングを逸しないように,“一歩早く”,適切に治療薬を使用し,腎代替療法を導入することも必要です.近年欧米から,AKI早期に持続的血液濾過透析を行うことの有効性を評価した大規模ランダム化比較試験が複数報告されており,最新の情報について紹介しています.透析療法は始めることに比べ中止することはとても難しく,離脱のタイミングも解説をしています.AKI自体の治療方法ではありませんが,ほかの主力治療としては体液管理のための利尿薬や輸液療法があげられます.利尿薬も使うのは易しですが,その使用に対する妥当性やTipsを今一度学んでいただきたいです. そしてAKIを腎臓専門医へコンサルテーションする際に必要な情報やコツを腎臓内科視点で解説をしています.可能な限り適切なアセスメントをして“一歩早く”コンサルトしていただけると大いに助かりますし,初期・後期研修医の先生方へのよいフィードバックにもなります.またAKIは急性病変であり,多くは改善する(と世間一般では考えられている)ものであるために,その後のフォローの重要性が希薄になっています.しかし最近のデータからは実はAKIはCKD(慢性腎臓病)のリスクであることが判明しています.そのため最後にAKIの予後について解説していただいており,AKI後に“一歩早く”長期リスクを認識し,その患者を10歩でも100歩でもフォローしていただけると,本企画を組ませていただいた,いち腎臓内科医として冥利に尽きます. さいごに,快く執筆依頼を受けていただき,本企画の意向を十二分に理解し,初期・後期研修医の先生方が現場で使うに十分な内容をまとめていただきました,臨床現場最前線で働いている各先生方,そして医学教育に情熱を燃やし,秋から米国留学に行かれる共同編集の寺下真帆先生にこの場を借りて,厚く御礼を申し上げます. 著者プロフィール 谷澤雅彦(Masahiko Yazawa) 聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科 講師 井の中の蛙にならないように,積極的に大海へ羽ばたき,多種多様な友達を作り,さまざまな情報にアンテナを張って,人生で最も輝かしい初期・後期研修医時代を忙しいながらも楽しく過ごしてください.