特集にあたって 特集にあたって 小杉俊介(飯塚病院 総合診療科) 1研修医の学修環境の変化 研修医の皆さんを取り巻く環境は日々変化しています.最近では,新型コロナウイルス感染症の流行により臨床での学修のしかたが大きく変化しました.何も気にすることなく対面で行われていた実習や研修などにはさまざまな制限がつき,それまで行われてきた教育にも変化が求められています.2020年6月にJACRA(Japanese Chief Residents Association:日本チーフレジデント協会)で行った調査では,COVID-19患者に接する可能性がある業務については,67%の施設で研修医の参画を制限していました.カンファレンスに関しても中止にしたりオンラインでの実施に変更したりとさまざまな工夫が行われています1). また2024年度からは本格的に働き方改革が実施され,勤務時間が厳格に制限されるようになります.これに関連して,「研修できる時間が減ってしまって,経験数が減って成長する機会が奪われてしまう」といった意見をよく耳にします.変化には不安はつきものなのでそう考えること自体は当然だと思いますが,果たして本当に成長する機会が奪われてしまうだけなのでしょうか.他国を見ると,例えば米国でも患者安全の観点から研修医の勤務が制限されてきました.しかし,その結果として1年目レジデントの病棟での診療時間減少や申し送り頻度が増加することなど,負の側面も報告されてきました2).近年では勤務時間の制限を緩和しても患者の転帰には差がないとの報告がなされ3,4),その結果を受けて米国でも連続勤務時間の制限が緩和されています.この知見は,勤務時間は長ければ長い方がよいということではなく,ある程度の制限は必要だが制限しすぎなくてもよいかもしれないと捉えることができます. とはいえ,研修医の労働時間は増えすぎると抑うつが増えることも報告されており5,6),研修医の皆さんにとっては休息をとることも重要です. ここから見えてくるのは,「勤務・臨床の場面での時間や機会は限られているので,その制限があるなかでの学びを最大化する」ことが皆さんに求められているということです. 「限られた勤務・臨床の場面での学びを最大化する」ためには,Just-in-Time learningとJust-in-Case learningとをうまく掛け合わせる必要があります(表). 目の前にある疑問を丁寧に解決しつつ,いつか出会うであろうまだ経験したことのない疾患や症候・手技などを業務外で学んでおくと,出会うチャンスがあった際にその学びを最大化できます. 2本特集の特徴 本特集では,若手指導医の先生方が実際に自分で行っていたり,自施設の研修医と共有していたりする,2023年現在の最も効率的な学び方をシェアしてもらいます.多少の教育的・学修的な理論の紹介はありますが,それよりも筆者たちが実際に行っている方法の紹介を中心としています. 前半に「業務時間中の学びを最大化する方法」,後半に「業務時間外での学びを最大化する方法」,そして最後には「自分自身が教える側になることの,“学ぶ”という観点からの意義」を書いてもらっています. 学び方には唯一解はなく,万人にとってうまくいく方法があるわけではありません.しかし,先輩たちが実際に試行錯誤の結果として実践している方法は,皆さんの学修の手助けとなると思います.自分に合った方法が見つかれば,それを実践してみてもらえると嬉しく思います.自分自身のメンタルヘルスを維持しながら,医療者としての成長を最大化しようと試みている先輩たち自身の経験を共有することにより,研修医の皆さんの成長の加速度が上がることと思います. 引用文献 小杉俊介:コロナ禍におけるJACRA所属施設での実際.医学教育サイバーシンポジウム(第3回 卒後教育),2020 Desai SV, et al:Effect of the 2011 vs 2003 duty hour regulation-compliant models on sleep duration, trainee education, and continuity of patient care among internal medicine house staff:a randomized trial. JAMA Intern Med, 173:649-655, 2013(PMID:23529771) Bilimoria KY, et al:National Cluster-Randomized Trial of Duty-Hour Flexibility in Surgical Training. N Engl J Med, 374:713-727, 2016(PMID:26836220) Desai SV, et al:Education Outcomes in a Duty-Hour Flexibility Trial in Internal Medicine. N Engl J Med, 378:1494-1508, 2018(PMID:29557719) Nagasaki K, et al:Association between mental health and duty hours of postgraduate residents in Japan:a nationwide cross-sectional study. Sci Rep, 12:10626, 2022(PMID:35739229) Fang Y, et al:Work Hours and Depression in U.S. First-Year Physicians. N Engl J Med, 387:1522-1524, 2022(PMID:36260798) 著者プロフィール 小杉俊介(Shunsuke Kosugi)飯塚病院 総合診療科 研修医や学生の皆さんが時代に合った学び方で効率よく学ぶことは 1つの能力になってきています.技術の進化や外部環境の変化のスピードに負けず,無理のない範囲でしっかりと成長していけるお手伝いができると嬉しいです.