痛みや不明熱など,診断に悩むことの多い症状について具体的な症例を提示し,「実際に何をどうしたらいいのか?」を実践的にガイド.また,診断思考過程において陥りがちなピットフォールをあげ,正しい診断を導くための手立てを紹介.
総合診療医を総合診療医たらしめるコンピテンシーはいくつもありますが,そのなかでも特に重要な部分を担っているのが,診断能力の幅広さ,すなわち臨床推論の多能性ではないでしょうか.プライマリ・ケアの5つの理念であるACCCAの中の1つのComprehensiveness(包括性)の評価指標の1つに,診断病名の多様さがあげられていることにも,それは如実に表れています.近年,診断学の良書が多く出版され,文献へのアクセスも整備され,われわれはその恩恵にあずかって日々診断しています.しかし,それでも診断に苦慮することは少なくありません.私は無床診療所と小病院で臨床業務を行っており,かつては大学病院で勤務した経験もありますが,検査機器の有無や患者の種類だけでは説明しきれない,おのおのの現場における診断の難しさがあり,最終的に診断が確定できなかった事例も複数経験しています.皆さんもきっとそんな経験があるのではないでしょうか.そんなとき,われわれはしばしば診断を「あきらめ」たり,臨床推論を「中止し」たりしていないでしょうか.
本書を手にしてまず感動した点,それは,診断がつかないことを肯定している点です.つまり,診断に苦慮した際に,「いかに華麗に診断を導き出すか」にとどまらず,「たとえ確定診断に至らなかったとしても,どう症例に向き合うか」を教えてくれる内容となっているのです.第1章「診断困難症例に出会ったら」では,なぜ診断が困難なのかをパターン化して分析したうえで,臨床推論に関係する知識と経験の関係性や,思考の流れとのかかわり,有効なツールとそれを有効に用いるための向き合い方を教えてくれます.第2章「診断に苦慮した症例」さらには第3章「診断がつけられなかった症例」では,さまざまな分野の診断困難・不能症例に対して,ただ単に臨床推論の流れを示すだけでなく,そのとき疾患と対峙した医師がどう考え,何が難しかったか,対応の根拠と考察のピットフォールなどを生の声で伝えています.事例ベースの論述にもかかわらず,読んでいて臨床推論の全般的な流れや自分の診断能力・体系に考えを巡らせることができるのは,本章が上記のような内容であるためでしょう.第4章「正しい診断を導くために」では,診断エラーの発生についての理論をもとに,今後われわれがどのように診断学と付き合い続けるべきか,今後の診断学がどうなっていくのかについて,総括的な学びを与えてくれます.
読破して,臨床推論に具体的に役立つ内容であるのはもちろんのこと,われわれ総合診療医が今後向き合い続ける診断学とのよい関係性を築いてくれる,このうえない良著だと実感しました.1人でも多くの総合診療医が,本書を通じて診断学と付き合いを深められることを願います.
井階友貴(福井大学医学部 地域プライマリケア講座)
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