特集にあたって 特集にあたって 金井信恭(東京北医療センター 救急科) 1救急診療におけるCTの役割 救急外来から依頼する画像検査にはいくつかのモダリティがありますが,腹部救急領域では得られる情報量,利便性,客観性などの面から何といってもCTが主役といえるでしょう.近年多くの施設で使用しているCTはMDCT(multidetector-row CT)であり,CTの検出器の多列化により,時間分解能・空間分解能が圧倒的に向上しています.救急医療のフローを大きく変え,救急の現場では正直なくてはならないモダリティとなっており,さらなる進化改良を続けています.救急外来の室内あるいは至近距離に配備されている施設も多いでしょう.しかし臨床の現場において時間的制約もあるなかで,このツールをうまく使いこなし,なるべく多くの情報を得るためには一定の修練が必要であり,一朝一夕にはなかなか難しいのが現状ではないでしょうか. 2救急でのCT検査の流れ−撮像の依頼まで 今回の特集は腹部救急CTの読み方が中心になりますが,筆者はそこに至るまであるいはその先どうするかまでを考えた ① 疾患を疑う→ ② 依頼する→ ③ 読影する→ ④ 診断から治療へという流れを大事にしています. 救急外来で当直やローテートする,あるいは内科外来の初診などで急患のファーストタッチにあたる研修医,若手医師が実際に腹痛を主訴に来院した患者を診察する場合,まずは緊急性や重症度が高いかどうかを判断します.病歴聴取や身体所見からある程度の鑑別疾患を絞り込みながら,採血や腹部超音波検査を行い,腹部CT検査の適応を考えます.そのためCTを依頼する場合には疑う疾患に合った適切な撮像条件を指示する必要があり,スキャン範囲のほか造影剤を使用するべきか否かを考えます.そのため造影剤使用の禁忌,原則禁忌に関してはきちんと理解しておく必要があります. 撮像条件では,例えば造影は単回でよいのか複数の時相(ダイナミック造影CT)で撮影するのかを含めて指示する必要があります.それぞれの撮影には当然意味があり役割があります.各病院で決めてある撮影プロトコールを確認しておきましょう. 依頼情報の記載に関しては,時間的制約があっても端折ってはいけません.放射線科医師,技師に患者背景,主訴,得られた所見などの臨床情報をきちんと伝えることは,前述のプロトコールを考えるうえでも重要であり依頼する側として当然の責務であり,チーム医療の一端であると考えています.読影にあたりレポートを作成くださる放射線科医師に対しても,省略された情報では臨床で何を疑い何を知りたいのかが伝わらず,読影の的がズレてしまったり画像診断の精度が下がってしまう可能性もあります. 3救急でのCT検査の流れ−読影して診断・治療 その後は? さあいよいよ撮像された画像を見ていきましょう.本特集では総論の「腹部救急CTの読み方」,「主訴と救急の腹部CT撮像プロトコール」で,前述した読影前の考え方,読影についての基本的な確認事項を説明した後に,各論で救急外来で必ず出合う疾患や緊急性の高い見逃してはいけない所見などについて,いつも救急現場で研修医と恊働しながら丁寧に指導くださる先生方に解説いただいております.“ここだけは!”という点をしっかりとおさえていただいていますが,せっかく読影できても迅速に治療に結びつけなくては患者を救うことはできません.保存的治療or IVR or手術といった読影後の治療についてこの所見を認めたら何を選択すべきかも各疾患ごとに記載してありますので参考にしましょう. 診療放射線技師の読影補助や遠隔読影もどんどん普及していますが,24時間体制で放射線科医がリアルタイムに救急画像を読影できる施設は大学病院を中心にごく限られており,多くの施設では時間外など夜間救急担当医(当直医)がCT画像を見て診断されていると思います.なかには重要な所見が見逃されていたり,目的範囲や関心領域以外に偶発的に異常所見がみつかり(incidental findings)後から放射線科医からフィードバックを受けることがあるかもしれません.急性大動脈解離,大腸穿孔,上腸間膜動脈閉塞症などいずれも怖い病気ですが,患者の訴えが乏しいため念頭になく,画像所見が最初は軽微で見落としてしまった結果致死的な状況になる場合もあります.まずは1件1件のCT読影経験を大事にし,可能な限り自分で見て考えてその場で答えを出しましょう.そしてその後の患者経過(手術記録,読影レポート,転帰など)は必ず追いかけて,少しでも多くの知識を積み重ねていきましょう.間違っていても現時点で自分はこう思い,こう考えたというプロセスは後からフィードバックを受け復習する場合にも,自分は何が足りなかったのか,何を知らなかったのかなどがわかり,次に活かせる足がかりになるでしょう. 臨床の傍で本特集が少しでも皆さんの救急現場で役に立つよう祈念しております. 著者プロフィール 金井信恭(Nobuyasu Kanai)東京北医療センター 救急科救急外来で日々,若手医師と協働しながら急患に対応,ワークステーションで救急CT診断を行っています.近年このような編集や執筆の機会をいただくようになり,若手医師に少しでも救急CT診断に興味をもってもらい楽しさや魅力を伝えられるよう自身も勉強中です.