特集にあたって 特集にあたって 筒泉貴彦(愛仁会高槻病院 総合内科) 無事国家試験を突破し,念願の医師としてデビューした研修医1年目の皆さん,いかがお過ごしでしょうか? あるいは研修医1年目を無事終えて,今度は2年目研修医としての重圧に向き合っている先生も読んでくださっているかもしれませんね. まだ医師として1カ月程度しか経過していないなかで,慣れない仕事に戸惑っているかもしれません.そのなかで私の思う研修医時代の最も大変だったこととして,今回のトピックである病棟対応があります.患者さんの方針が朝に上級医と話し合って決まっていたとしても,その後いろいろなことが起こります.熱が出る,便秘が実は続いている,少し不穏になられる患者さんもおられました.十分な知識がなかった当時の私は「みんな,なんでこんなに僕を困らせるの!?」と感じていたものです.そして上級医は外来や手術をされておりすぐに相談ができない.「あぁ,どうしよう」と絶望的な気持ちになっていた日々を思い出します. 当時,研修医間で “パーフェクト指示簿” なるものが出回っていました.この指示簿さえあればいかなる患者さんの症状でも対応できるというものです.しかし,実際に中身を見るとすべての症状を「抑える」対応のみに終始しており,未熟な私なりに違和感を覚えたものです. 本特集では病棟で遭遇しやすい病態に対して実践的なアプローチを学んでいただくように作成いたしました.以下,特集の特色を述べています. 1)各病態に対する理解を深める そもそも各病態は「なぜ」起こっているのか,を理解しないと次のステップに進めません.各病態が起こるメカニズムをまず理解することで,その対応の妥当性が理解しやすくなります.なんか知らんけど便秘,でとどまらず,なぜ便秘になっているのか,そしてそれに対してどうしたらよいのか,という思考プロセスが得られるように,こちらの解説部分はおろそかにせずご活用ください. 2)実践的な症例を通じて,本来行うべき対応をシミュレーションしてもらう 教科書的な記載であると実践性が生まれにくいと思われるため,実際に遭遇しそうなケースを各トピックに複数用意しました.基本的に,1例目は比較的典型的な経過,以降は少しひねったケースを用意しています.自身ならどうするだろう,と考えながらお読みいただけると幸いです. 3)具体的な薬剤の使用方法,注意点を提示する どの薬剤を処方するのか,本当に安全な薬なのか,ということは研修医の時期にはとても気になりますよね.今回は各トピックにおいて使用する頻度の高いと思われる薬剤の具体的使用法,注意すべき点を含めて記載しています. 本特集は,お読みいただいた研修医の先生が,病棟で頻出するこれらの病態に対して適切な対応ができるよう設計しました.また,執筆者陣も本内容に相応しい,いわゆる総合内科において病棟診療を専門とする医師および診療看護師に執筆を依頼しています.総合内科は欧米ではホスピタリストと呼ばれる存在であり,入院患者の診療を専門に行う現在最も人気のある職種の1つです.一見,専門性がないように思われがちですが内科疾患のみならず外科疾患も手広く診療でき,かつ病棟診療という入院しているからこそ起こりうることへの対応については最も長けています.今回の執筆者陣は今でこそ病棟対応については眉一つ動かさずに対応できますが,皆さんのようにキャリアがはじまったばかりの頃は同様に苦しんだ時期があります.そのときの自分にとっても有用な内容になるよう,今回各人が張り切って執筆してくださいました. 皆さんが今後どの診療科に進まれたとしても,入院診療に携わる可能性は非常に高いように思います.研修医の時期にこそ正しい病棟対応をしっかりと学んでいただき,今後の医師人生における診療の礎にされることをお勧めします.その際に本特集が少しでもお役に立つのであればこれ以上の幸せはありません. 最後になりましたが,今回の特集を作成するにあたり,日々の診療で忙しいなかで私の執筆依頼をご快諾いただいた高槻病院総合内科の皆様,神戸百年記念病院総合診療科の皆様,羊土社レジデントノート編集部に深く御礼申し上げます. 著者プロフィール 愛仁会高槻病院 総合内科 高齢社会などの社会全体の大きな変化において,医療体系もそれに合わせた変化が必要になっていることを日々の診療でひしひしと感じています. 高槻病院総合内科では社会のニーズに応えることができる骨太の内科医の育成をめざしてスタッフ一同切磋琢磨しております.ご興味がある方はぜひ見学にお越しください.