レジデントノート:救急の問診術 限られた時間でどう聞く?どう考える?〜曖昧な主訴や聞きにくいことも、上手に情報収集・解釈できる!
レジデントノート 2024年10月号 Vol.26 No.10

救急の問診術 限られた時間でどう聞く?どう考える?

曖昧な主訴や聞きにくいことも、上手に情報収集・解釈できる!

  • 坂本 壮/編
  • 2024年09月10日発行
  • B5判
  • 148ページ
  • ISBN 978-4-7581-2722-6
  • 2,530(本体2,300円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

特集にあたって
問診は治療の第一歩!

坂本 壮
(総合病院国保旭中央病院 救急救命科)

 はじめに:してやられないための問診術

皆さん救急外来の問診(病歴聴取)で困った経験はありますよね.例えば…42歳の女性が咽頭痛を主訴に来院し,新型コロナの迅速検査を施行したところ陽性.それを伝えると,「あ,やっぱり.息子がコロナなので」と言われ,「それ,早く言ってよ〜」と某企業のCMのような台詞が頭のなかで流れたこと,ありますよね.あるいは,顎の痛みで来院した72歳男性.病歴を詳しく聞いても,何が原因かわからず悩んでいると患者さんがボソッと一言,「前にも同じようなことがあって,そのときには心筋梗塞でした」と…これを読んでいるあなたも,「そういうのさぁ,早く言ってよ〜」とまたしてもあの名俳優と同じような顔つきで呟いてしまったことでしょう.

患者さんの訴える症状の原因を突き止めるためには,病歴聴取,問診(history taking)だけでなく,身体診察(physical examination)を行ってバイタルサイン(vital signs)を評価し,必要に応じて検査を行うというのが原則です〔「【コラム①】Hi-Phy-Viのトライアングルで攻めよう」(p.1692)参照〕.バイタルサインの異常を認める場合や典型的な身体所見を認める場合には判断を見誤ることは少ないですが,一見すると落ち着いていそうな患者さんの危険信号は問診でしかわからないのです.

さて,今回は救急外来における問診に関する特集です.どのような点を意識して問診すればよいのか,普段の問診をワンランクアップさせるための至極のスパイスをご紹介します.どうぞお楽しみください.

 “PERFECT approach”

皆さんは問診を行う際に注意していることはあるでしょうか.パーフェクトな問診を達成するのは困難なことが多いですが,めざしたいという意を込めて「PERFECT approach(表1)」と名づけて解説しておきましょう.

1)prepare:事前準備

問診の前に,患者さんがどのような背景をもつ方なのかをある程度把握しておくと,陥りやすい病態や問診で気にかけるべき点がわかるでしょう.また,悪性腫瘍の指摘がなされている場合などには治療方針がカルテに明示されていることもあり,確認しておくことで患者本人の意志に見合った対応を頭に入れておくことができます.

ex. 74歳男性.アルコール性肝硬変で過去に数回の食道静脈瘤破裂の既往あり.現在も飲酒がやめられていない.

→ 吐血が主訴なら再度静脈瘤の破裂? 輸血の準備が必要かな.アルコール性ケトアシドーシスも鑑別する必要があるので,早期に血液ガスは確認しよう. etc

ex. 85歳男性.肺がん,脳転移で緩和病棟へ入院予定.カルテには呼吸困難などの症状があれば酸素のみ介入し担当医(担当グループ)へ連絡するように記載あり.

→ 救急受診の連絡があった段階で担当医へ連絡

2)environment:環境設定,プライバシーの保護

皆さんも他人には話したくないこと,話しづらいことがありますよね?! 病状を把握するため,原因を特定するために,私たちは患者さんへプライベートな質問をしなければならないこともありますが,その際には話しやすい環境を設定する必要があります.異性の医師には話しづらいこともあるでしょう.また,家族やパートナーなど,付き添いの方の前では言い出しづらいこともあるでしょう.自分が患者の立場だったらと考えてみてください.空間が仕切られていても,それが薄いカーテン1枚であれば話しづらいものです.

3) respect:敬意をもって接する

救急外来は老若男女さまざまな方が訪れますが,その多くは高齢者など皆さんよりも年上の方でしょう(小児の患者さんでも付き添いの保護者は年上のことが多いですよね).その際,タメ口や上から目線で話すのはNGです.これも皆さんが患者さん,患者家族の立場に立てばわかると思いますが,辛い,痛い,不安など,今まさに困っている患者さんやご家族に対しては,丁寧な姿勢,言葉遣いで目線を合わせ対応するのが望ましいでしょう.

患者満足度に影響する因子として,表2の項目が代表的であり,態度やコミュニケーションが待ち時間などとともに影響することがよくわかります1).実際に患者さんやご家族からの投書で指摘されることの多くは,対応した医師や看護師,事務職員の態度ですよね?!

4)frame question:重要な情報を引き出すためのフレーム

皆さんの病院では救急外来でトリアージが行われているでしょうか.トリアージは緊急度を短時間で評価し,優先順位をつけるものですが,それに割くことのできる時間は数分です.トリアージに時間をかけるあまり,診療自体が遅れてしまっては意味がありませんからね.

短時間で危険なサインをキャッチするためには,的を射た問診が必要になります.JTAS(Japanese Triage and Acuity Scale:緊急度判定支援システム)を用いている施設も多いと思いますが,それのみでは限界があるのも事実です.トリアージの質をより高めるためには,各々の主訴から想起すべき見逃してはいけない疾患を意識した問診を行う必要があります2)

救急外来では『ER実践ハンドブック』(羊土社)3)や『当直ハンドブック』(中外医学社)4)などを参考に,症候ごとのアプローチ方法を整理しておくとよいでしょう.また,アプローチの軸を知るとともに,クリティカルな疾患やコモンな疾患を導くためのフォーカス問診(focused interview)を意識するとよいでしょう.本特集の各稿でその一例を紹介しているのでぜひご覧ください.

5)empathize:患者さん,家族に共感

皆さんは実際に患者として,または家族の付き添いで救急外来を受診したことがあるでしょうか.そのような経験があれば,どれほど不安で心細い気持ちになるかがわかるかと思います.患者さんや家族が抱える不安や心配を理解し,寄り添う姿勢をもつことで,信頼関係が構築され,問診もしやすくなることでしょう.まだそのような経験がない方は,映画『湯を沸かすほどの熱い愛』をご覧ください.

6)confirm:情報を要約し確認

テストでもケアレスミスがないように最後にざっと確認しますよね.それと同じように,問診し把握した内容も確定する前に確認する癖をもつとよいでしょう.患者さん,家族,施設職員などから得た情報をそのまま鵜呑みにせず,一度要約し再確認することで,誤解や抜け,漏れを防ぐことができます.コミュニケーションを強化し,診断の精度を高めるためにも重要なプロセスです.

例えば,患者さんが訴える症状や経過,既往歴などをまとめ,「先ほどお聞きした内容を確認しますと,〇〇という症状が〇日前からはじまり,〇〇という経過をたどっているということでよろしいでしょうか?」といった具合に確認します.これにより,患者さんも自分の話が正確に伝わっているかを確認でき,安心感をもつことができるでしょう.

7)take time:傾聴

迅速な行動を求められるがゆえに,患者さんの話を遮ってはいないでしょうか.医師の「今日はどうされましたか?」の問いに対して,患者さんが話を遮られずに話すことができたのはたったの18秒という報告があります5).信じられないかもしれませんが,意外と多くの人が患者さんの話の途中に割って入っているのです(研修医の先生の問診をカーテン越しで聞いているとよくわかります).たいていの場合には患者さんは1分程度で話し終えるので,まずは聴きましょう.その際,顔は電子カルテではなく,患者さんに向けましょう

 おわりに

よく,“The interview is the beginning of treatment.(問診は治療の第一歩である)” などといわれます.信頼関係を構築するためにも,診療に必要な情報を集めるためにも,まずは問診が大切です.動きながら対応することが求められる場合も多いですが,問診なくして的確な対応はできません.この特集を機会に,今一度自身の問診を振り返ってみましょう.

引用文献

  • Haruna J, et al:Emergency Nursing-Care Patient Satisfaction Scale (Enpss): Development and Validation of a Patient Satisfaction Scale with Emergency Room Nursing. Healthcare (Basel), 10:, 2022(PMID:35326996)
  • 「ERナースの思考加速トリアージ (坂本 壮/著),メディカ出版, 2022
  • ER実践ハンドブック 改訂版」(樫山鉄矢,坂本 壮/編),羊土社,2022
  • 「当直ハンドブック2024」(志賀 隆/編),中外医学社,2023
  • Beckman HB & Frankel RM:The effect of physician behavior on the collection of data. Ann Intern Med, 101:692-696, 1984(PMID:6486600)

著者プロフィール

坂本 壮(So Sakamoto)
総合病院国保旭中央病院 救急救命科
気づけば,2024年度もすでに半分が過ぎ去りましたね.チコちゃんが言うには,「トキメキ」が少なくなると,時間があっという間に感じるそうです.でも,日々新たな疑問や好奇心にあふれる救急の現場で働いている皆さんにとっては,1年がとても長く感じるのではないでしょうか? 疑問や質問,また救急関連のセミナー案内などは,ぜひこちらからどうぞ → X:@Sounet1980

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