レジデントノート:スッキリ解決!便秘・下痢診療の悩みどころ〜見逃せない重要疾患の鑑別、薬剤の使い分けから、コンサルトのタイミングまで
レジデントノート 2024年12月号 Vol.26 No.13

スッキリ解決!便秘・下痢診療の悩みどころ

見逃せない重要疾患の鑑別、薬剤の使い分けから、コンサルトのタイミングまで

  • 三原 弘/編
  • 2024年11月08日発行
  • B5判
  • 148ページ
  • ISBN 978-4-7581-2725-7
  • 2,530(本体2,300円+税)
  • 在庫:予約受付中

特集にあたって

特集にあたって

三原 弘
(札幌医科大学医療人育成センター/医学部 総合診療医学講座)

 便秘・下痢診療の難しさと本特集のねらい

研修医の皆さん,毎日の診療お疲れ様です.本特集「スッキリ解決! 便秘・下痢診療の悩みどころ」を通して,皆さんの日々の研修がさらに明るいものとなることを願っております.

便秘や下痢はよくある症状ですが,放っておくと大変なことになる場合もあります.例えば,便秘が原因で腸が詰まり,お腹の中に穴が開いてしまうことがあります.また,下痢で受診した患者さんが実は敗血症やアナフィラキシーであったり,10年前の前立腺がんに対する放射線治療が下痢の原因であったりすることがあります.最近では,免疫チェックポイント阻害薬が下痢の原因であることなどもあります.このような重大な問題を見逃さないためのコツを,研修医のうちにぜひ学んでください.

私自身,医学生の頃は不勉強だったこともあり,研修医の頃に便秘で来院された腸閉塞の患者さんを見逃しそうになった経験があります.外科の先生への相談のしかたもわからず,ご迷惑をおかけしたこともありました.そのため,便秘や腹痛に対して苦手意識が強かったのですが,実は,便秘・下痢や腹痛の対応はベテランの医師にとっても非常に難しいことであると後にわかりました.

本特集では,便秘や下痢に隠れた重大な病気の見つけかた,便秘薬の選びかたと使い分け,薬で治らないときの対策,専門医に相談するタイミングなどを詳しく説明しています.また,『便通異常症診療ガイドライン2023−慢性便秘症/慢性下痢症』の内容を実際の診療にどう活かすかも解説しています.

具体的な患者さんの例や処方例をたくさん載せているので,実際の診療の参考になると思います.

 便秘・下痢診療のやりがいと奥深さ

私は,便秘からパーキンソン病を早期に発見できた経験があり,最近は糖尿病による下痢や便秘,さまざまな薬剤性便秘を見つけようとがんばっています.

便秘や下痢,そして腹痛は狙いを絞って検査や鑑別を行わないと診断が難しいことも多いです.例えば,下痢症状のある関節リウマチのアミロイドーシス,PPI内服中の膠原線維性大腸炎,はたまた,複数のアレルギー疾患合併時の好酸球性胃腸炎などです.ある疾患を疑ったら,狙って消化管の生検を依頼しましょう.

過敏性腸症候群は本当に苦しい疾患で,ストレスが原因とかたづけられがちですが,患者さんのお話を伺い,腹痛が出現するようになった人生の過程に触れさせてもらうことも重要です.腹痛が残存しても,患者さんがなんとかやっていけるようになる道筋を共有できることは医師としての大きなやりがいです.難治性の便秘患者さんでも,下剤の調整や生活指導を数カ月にわたって行い,徐々に快便が得られると医師としての幸せを感じます.

また下痢については,整腸薬で帰宅させようとした患者さんが出血性胃潰瘍だった経験から,下痢の色は必ず確認するようにしています.実は,看護師さんから「下痢便は黒かったらしいよ」と教えてもらって見落としを免れたのでした.

最近,Clostridioides difficile(CD)の便は緑色で,酸っぱい臭いが診断につながりうることを知りました.これは,AIによる診断にはとって代わられませんね.

さらに,こんなこともありました.長期の慢性下痢の患者さんで,CRPが弱陽性であるのが気になり,上部・下部消化管内視鏡では異常がなかったのですが,便中カルプロテクチンが陽性であったことから絶対に怪しいと思い,念のため小腸カプセル内視鏡を実施したところ,小腸クローン病による下痢であることがわかりました.小腸の狭窄はすでに進んでおり,もっと早く診断できていればと後悔しました.

このように,便秘・下痢は本当に怖いものですが,その分やりがいもあるものです.本特集で,ぜひ適切な対応を学んでいただければと思います.

ここで皆さんに,これから役立つ身につけるべき武器を授けたいと思います.

それは,腹部超音波検査です.腸管内の便量や液体貯留,腸管壁肥厚の部位と程度を非侵襲的に評価できます.確定診断まではできなくとも,便秘や腸閉塞,潰瘍性大腸炎,感染性腸炎,大腸がんなどをあらかた推定するのに役立ちます.研修医時代にこれを習慣化することで,医師としての一生の宝となるでしょう.

 おわりに

便秘に対する薬剤はここ十数年の間に一気に増えましたが,下痢に対する薬剤は,過敏性腸症候群に対するラモセトロン,慢性膵炎に対するパンクレアチン製剤,CD腸炎に対する新薬以外,ほとんど増えていないのが現状です.下痢を根本から解決する希望の星が,本特集の読者から生まれることを密かに期待しています.

研修医の皆さんがこの特集を通じて,患者さんの苦しみを和らげ,よりよい治療ができるようになることを心から応援しています.日々の学びを大切にすることで,素晴らしい医師へと成長していくことを確信しています.本特集がその助けになれば幸いです.これからも,患者さんのため,自分の成長のために,日々の学びを大切にしてください.研修医の皆さんの健闘を祈っています.

著者プロフィール

三原 弘(Hiroshi Mihara)
札幌医科大学 医療人育成センター(医学部総合診療医学講座兼任) 役職:准教授
専門:総合診療,医学教育,消化器内科
略歴:富山医科薬科大学卒業・初期臨床研修.第三内科(消化器内科),医師キャリアパス創造センター,2022年より札幌医科大学.
今していること:急性腹症診療ガイドライン改訂・うんこ本執筆中
趣味:ICTを用いた新しい学習・教育ツールの開発

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