特集にあたって 特集にあたって 今本俊郎(埼玉医科大学 総合医療センター 高度救命救急センター) 研修医1年目の皆さん,医師生活も9カ月が過ぎましたね.研修医2年目の先生たちは,残すところ数カ月で初期研修が修了する頃かと思います.唐突ですが「痛み」に自信をもって対応できていますか? 痛みに対する対応は,研修をはじめてすぐに先輩研修医や上級医の先生から教わることはあるでしょう.しかし,体系的に痛みを学び直す機会は意外と研修が進んでも乏しいのではないでしょうか? 本特集は救急外来や病棟で遭遇する「痛み」という訴えに対して,ただ症状を抑えるだけではなく原因や病態にこだわり,今までよりも痛みに対してロジカルかつ実践的なアプローチができるようになることを目標に項目立てし,作成させていただきました. 1部位別『○○痛』の鑑別診断本ではなく,痛みに対応する 医師の行動変容につながるように 今回,「痛み」にフォーカスした特集の編集の依頼をいただき,企画を練るにあたって,研修医の先生や指導医の先生にアンケートに答えていただき,痛みに対して悩んでいること,教えたいことの抽出を行いました.当初は部位別『○○痛』のアプローチと項目立てする案もありましたが,アンケート結果をもとに数多ある鑑別診断寄りの本と同じベクトルではなく研修医の先生たちが診療現場で対応する際に本当に知りたいこと,類書ではカバーできていないところにフォーカスを当ててみました.本文で学び,即実践! となるように各論ではポイントごとにオーダーすべき検査や考えることを明確にご執筆いただきました. 2本特集の構成 〜その場しのぎにならないためのアプローチを身につける〜 本特集は総論2項目,各論7項目から構成されています. まず総論の1つ目として,痛みについて系統立てて学べるよう,臨床で必要な基礎知識を上尾中央総合病院 救急科の藤井 遼先生に執筆していただきました.日頃から研修医に「なぜ?」と疑問をもつことを意識付けされ,きめ細やかな救急外来指導をされておられる藤井先生から,痛みの科学的な理解から実臨床への橋渡しをしていただきました.次に総論の2つ目として疼痛に対するアプローチについて練馬光が丘病院 総合救急診療科の北井勇也先生に執筆していただきました.一般的なことだけではなく診断がつかない痛みに対してのアプローチや痛みについて問診で気をつけるべきことなどを,系統立ててまとめていただきました. 各論は頭痛からはじまります.今回は湘南鎌倉総合病院 脳神経内科の山本大介先生に執筆を依頼させていただきました.山本先生の単著を読ませていただき,非常にわかりやすく,そして教育への熱を感じたため,今回の企画をいただいたときに,ぜひ執筆を依頼したいと思っておりました.頭痛と聞くと,くも膜下出血をはじめとする頭蓋内出血性病変で思考が止まりがちですよね.緊急疾患を除外後に残る一次性頭痛や慢性頭痛については,意外と救急外来でなんとなく鎮痛薬処方で帰宅してもらっているのが現状だと思います.今回は,片頭痛をベースにスペシャリストの思考をトレースできるようご解説いただきました. 救急外来では,内服ではコントロールできない疼痛に,しばしば遭遇します.このようなとき,麻酔科の先生ならば硬膜外麻酔や神経ブロックなど,さらなる手段をもち合わせていることかと思います.なかなか一朝一夕に身につけられるものではありませんが,手術室外でできうる内服・注射での鎮痛の先にある鎮痛について,麻酔科医のバックグラウンドをおもちで現在は救急医として指導の立場におられる島根県立中央病院 高度救命救急センター・救命救急科の石田亮介先生に執筆していただきました. がん性疼痛について,体系的に学ぶチャンスは意外に限られていると筆者は思っています.しかしがんを扱うような内科・外科以外に進んだ場合,がん性疼痛への対応に漠然と苦手意識があるのではないかという意見が,今回の企画過程において出ました.家庭医として緩和ケアにも精通しておられる札幌南徳洲会病院 総合診療・緩和ケア内科の名越康晴先生にオピオイドの力価変換や麻薬の使い分け,周辺症状への対策などを体系的にまとめていただきました. 筋骨格系の痛みは,骨折がないことを確認して終わりとなっていたり,そもそもほかの鑑別疾患が思い浮かびにくかったり,対応が薄くなりがちな領域かと存じます.今回は内科的・外科的に筋骨格系の痛みへのアプローチを,それぞれ一宮西病院 総合内科の竹之内盛志先生,獨協医科大学 整形外科の高田知史先生に執筆を依頼しました.竹之内先生はリウマチ膠原病領域を専門とされ,教育に熱い先生として赴任された病院の先々で研修医を魅了し続けています.高田先生は若手ながら日本整形外科超音波学会,先進整形外科エコー研究会の役員をしておられ,今回の企画において,体系的な筋骨格系の痛みについて論じていただくには,これ以上なく適任の先生だと思い依頼をさせていただきました. また,妊婦というだけで,過度に診療に対する恐怖感がある研修医が多いことが今回の企画アンケートで明らかになりました.研修医の先生に妊婦の診療へのアレルギー反応を少しでも減らせればと思い,女性診療のカテゴリーで執筆を多数されている淀川キリスト教病院 産婦人科の柴田綾子先生に依頼させていただきました. さらに,「痛みの疑問,千本ノック!」としてこのような企画で狭間に落ちがちな些細な疼痛に関する疑問に答える項目を設けることで痒いところに手が届く特集になったかと存じます.普段のレジデントノートの形式とは違う試みに,快く執筆をしていただいた君津中央病院 麻酔科の鈴木利直先生には,この場を借りて深くお礼申し上げます. おわりに 研修医の先生は,専門研修に進まれた後も,医師を続けている限り,「患者の疼痛」という問題には向き合わなければなりません.早い時期に疼痛に対して体系的に学んでいただき,今後の医師人生の礎を築くために本特集が少しでも力になれれば幸いです. 最後になりましたが,今回の特集を作成するにあたり,疼痛に対する本音を話してくれた上尾中央総合病院・埼玉医科大学総合医療センターの研修医の先生たち,全国の施設からアンケートを集めていただき,企画の根幹を支えていただいた羊土社レジデントノート編集部に深くお礼申し上げます. 著者プロフィール 今本俊郎(Toshiro Imamoto) 埼玉医科大学 総合医療センター 高度救命救急センター 講師 専門:外傷,小児救急,IVR 10年前は,今のような生活をしているとは思っていませんでした.何が天職と感じるかはわかりません.目の前にあることを一生懸命取り組んだ先に,「これだ!」というものに巡り合うと思います.一芸の腕を磨き続けることを続けながらも,最強の器用貧乏をこれからもめざします.一緒に楽しく救命しましょう!