80 歳女性.脳梗塞急性期の患者さん.意識障害(JCS Ⅱ-20)と嚥下障害がみられる.既往歴で消化管の切除手術歴はない.腹痛,腹満,便秘はなく,排便は良好である.嘔気,嘔吐はみられない.現在のBMIは22 である. その後,脳梗塞発症から6週が経過したが,意識障害は持続している(JCSⅠ-3A).嚥下リハビリテーションを継続しているが,食事時の注意力が不足しており,嚥下障害も持続している.腹痛,腹満,便秘はなく,排便は良好である.嘔気,嘔吐はみられない. c:胃瘻・腸瘻などの瘻孔法 経管栄養の経路選択 長期となる場合には瘻孔法を考慮 栄養投与経路を考えるうえで大切なポイントは以下の通りです. 栄養投与経路の選択にあたっては,管理期間がどの程度になるかが重要です 経腸栄養法は,強制的な栄養投与が短期の場合は経鼻チューブ法を用いますが,長期となる場合には瘻孔法を選択します.日本で短期の目安は4週間未満です.すなわち栄養投与期間が 短期の場合(4週間以内)→経鼻チューブの適応 長期の場合(4週間以上)→胃瘻または腸瘻 となります. 発症から6週経過しても意識障害と嚥下障害が持続しており,今後も嚥下機能障害が持続することが想定されます.経口摂取は困難であり,消化管機能は問題ないため,瘻孔法による経腸栄養法が望ましいと考えられます.栄養障害がある場合は瘻孔造設に伴う合併症も起こりやすくなるため,ある程度の栄養状態が必要です. 経管栄養の投与経路 図2を参照してください.チューブの留置経路によって,経鼻チューブ法と瘻孔法に分けられます.経鼻チューブ法では,鼻腔から胃に留置する経鼻胃経路と,鼻腔から胃十二指腸や空腸内に留置する経鼻十二指腸・空腸経路があります. 瘻孔法は,体表面上に瘻孔を形成し,栄養チューブを留置します. 1)経鼻チューブ法 前述の通り,栄養投与期間が短期の場合に用いられます. 適応となる病態は嚥下障害が中心であり,脳卒中がその代表疾患ですが,経鼻チューブの留置自体が実は,嚥下に悪影響を及ぼし,チューブの口径が大きいとその影響が強くなるという報告があります1).また,何も食べてなくても誤嚥リスクが高まることがあります. Advanced Lecture 経鼻胃管症候群 合併症として経鼻胃管症候群(nasogastric tube syndrome)があります. 経鼻胃管症候群は1981年にSoffermanらによって報告2)されました.経鼻チューブの圧迫によって,食道入口部から輪状軟骨付近に血流障害を生じ,多くは潰瘍形成から細菌感染を生じ,声帯麻痺,喉頭の閉塞,呼吸困難を引き起こす症候群です.喉頭鏡で声帯,喉頭蓋の著しい浮腫がみられます.治療はチューブの抜去になります.留置期間が短くても起こるので,適応した患者さんの日々のモニタリングが大切です3). 2)経鼻チューブ胃内留置の挿入手順 1.体位と挿入鼻腔の確認 挿入は嘔吐反射が出現するので,原則として空腹時に行います.挿入時の体位は,原則座位で,上半身を30〜45度挙上します.しっかり正面を向いた体位をとることが大切です.鼻腔の閉塞,変形などを確認して左右どちらにするか決めます. 2.経鼻チューブの準備 チューブの長さをチェックします.先端を胃内に留置する場合は,成人で門歯から噴門までは約45 cmです.多くのチューブは決まった間隔で線が付いているので,挿入距離の確認に利用します.また,挿入する鼻腔とチューブに潤滑油などを塗布しておきます. 3.挿入 顔面に垂直方向に鼻腔からチューブを後咽頭まで進めます.後咽頭までは約10〜15 cmであり,最初に抵抗が生じるところです.後咽頭部に達したら一度止め,頭部を挙上し,顎を引き,経鼻チューブを嚥下とともに一気に通過させます.唾液を飲み込むタイミングで,喉頭蓋が閉じて食道が開くためです.甲状軟骨の上下する動きに合わせてチューブを進めると入りやすいです.喉頭を通過すれば,チューブの最終挿入位置まで通常はスムーズに挿入できますが,もし抵抗があるようであれば,口腔内でトグロを巻いている可能性があるので,確認します.最終挿入長まで進めたら固定します. 4.チューブ位置の確認 チューブの位置の確認方法には,胃内流入音の聴取,胃内容物の吸引,X線撮影による確認があり,複数の方法で確認を行います.胃内にチューブの先端があるかどうかの確認は,10 mL程度の空気をカテーテルチップで勢いよく注入し,聴診器で心窩部での気泡音を確認します.また胃内容物の逆流を確認します4).誤って気管内に留置され経管栄養を開始すれば,致命的ともなります.またチューブ胃内に挿入されていても,位置が口側で側孔の一部が食道内に留まっていれば,逆流して誤嚥を生じてしまいます.したがって,チューブ誤挿入に十分に注意し避けなくてはなりません. 2)瘻孔法 1.胃瘻 腹壁と胃の間につくられた瘻孔にチューブを通して,胃のなかへ栄養を注入する方法です.開腹手術もしくは,内視鏡を用いて胃瘻をつくります.内視鏡を用いた方法は経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)といいます.前述の経鼻チューブ法の適応と同じく,適応となる病態は嚥下障害が中心です.その他,胃より口側にあたる咽頭,食道および胃噴門狭窄や,食道穿孔例も胃瘻の適応となります.胃瘻の禁忌としては通常の内視鏡が使用できない症例や,著しい腹水貯留,出血傾向がある場合などです. 2.胃空腸瘻 胃瘻を経由してチューブ先端を空腸に置きます.PEG-J(percutaneous endoscopic gastro-jejunostomy:経胃瘻的空腸瘻)は,胃瘻または胃瘻カテーテルを通して,栄養カテーテルの先端を幽門輪を越えて空腸に留置します.胃瘻管理で逆流性食道炎や誤嚥性肺炎をくり返す症例に効果的であり,長期的な使用の安全性も報告されています5). 経胃・経十二指腸管投与の使い分け 経鼻チューブを胃内に置くか十二指腸以遠に置くかについての考え方ですが,経鼻チューブを使用した栄養投与において,最も大切なのは誤嚥性肺炎を防ぐことです.食道への逆流がなく誤嚥リスクが低い事例では,チューブを胃内に留置し,食道への逆流があり誤嚥リスクが高い症例では,チューブの先端を十二指腸以遠に留置することを考慮しましょう.日本版重症患者の栄養療法ガイドライン(J-CCNTG)においては,「経管栄養施行の際,経胃投与よりも十二指腸以遠から投与されるべきか?」というCQについては,誤嚥のリスクがある症例では幽門後からの経管栄養を考慮することを弱く推奨(2C)としています6). 引用文献 西 将則,他:経鼻経管栄養チューブが嚥下に与える影響.リハビリテーション医学,43:243-248,2006 Sofferman RA, et al:The nasogastric tube syndrome. Laryngoscope, 100:962-968, 1990 「治療に活かす!栄養療法はじめの一歩」(清水健一郎/著),羊土社,2011 「静脈経腸栄養ガイドライン 第3版」(日本静脈経腸栄養学会/編),照林社,2013 平山陽士,他:経胃瘻的空腸瘻(PEG-J)により小腸軸捻転に至った1例.日内会誌,106:1000-1004,2017 小谷穣治,他:日本版重症患者の栄養療法ガイドライン.日集中医誌,23:185-281,2016 (2021/04/15公開) 戻る この"ドリル"の掲載書をご紹介します 栄養療法ドリル評価・指示の出し方から病態の考え方までまるっとわかる100問 泉野浩生/編 定価:4,400円(本体4,000円+税) 在庫:あり 月刊レジデントノート 最新号 次号案内 バックナンバー 連載一覧 掲載広告一覧 定期購読案内 定期購読WEB版サービス 定期購読申込状況 レジデントノート増刊 最新号 次号案内 バックナンバー 定期購読案内 residentnote @Yodosha_RN その他の羊土社のページ ウェブGノート 実験医学online 教科書・サブテキスト 広告出稿をお考えの方へ 広告出稿の案内