春の研修医応援企画ドリル祭り2020

62歳男性,将棋の直後に突然失神した

62歳男性,将棋の直後に突然失神した

62歳男性,近医にて高血圧,脂質異常症で加療中であった.趣味の将棋を指し終わった直後に突然失神し,救急車で緊急搬送された.来院時の12誘導心電図を示す.

リズム異常の診断は何か?次に行うべき処置は何か?
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解答

A1.心室細動
A2.心肺蘇生,電気的除細動

1.診断のポイント

図 本症例の着眼点

QRS波形が不規則となり,QRS波とT波の認識が不可能(図1

2.心電図波形の所見

心室細動は,心室の各部位が不規則に痙攣様の収縮をきたし,有効な心拍出量が全く得られない状態となり,失神,突然死に至る不整脈である.自然停止はほとんど期待できないため,すみやかな処置が必要となる.心電図の特徴は,QRS-Tが連続した不規則な波形で,心拍数は通常300回/分を超えるが,除細動に時間を要すると低振幅,徐拍化し,最終的には心静止に至る.この症例では状況的には急性虚血が疑われるが,発症後,病院到着までに長時間を要しており,回復できずに永眠された.

3.鑑別診断

図2 多形性心室頻拍とアーチファクト
1 多形性心室頻拍

QRS波形が刻々と変化する心室頻拍で,心室細動と同様に有効な心拍出量が得られず,失神,突然死をきたす.心室細動との鑑別は多形性心室頻拍では,QRS-Tが認識できるかどうかであるが,明確な線引きは困難で,基本的に同様の処置が必要である(図2A).

2 torsades de points

狭義ではQT延長の伴う多形性心室頻拍をさす.QRS波形は基線を中心として捻れるような波形変化を示し,失神の原因となる(図2B).急性期治療はマグネシウム製剤の静注が有効で,QT延長をきたすカリウムチャネル遮断薬(Ⅰa群およびⅢ群抗不整脈薬)は使用すべきではない

3 アーチファクト

静電気,体動により多形性心室頻拍・心室細動様の波形が記録されることがある.一見,波形がQRS-T波様にもみられることがあり,鑑別が必要となる.波形もよく観察すると,もともとの調律に伴うQRS波形が見え隠れ(洞調律ならば規則的に)することから,アーチファクトと判定可能である(図2C).

4.次に行うべき処置

心室細動であり,時間経過ととともに脳障害が進行するため,直ちに心肺蘇生,電気的除細動が必要である.洞調律化が得られた場合,基礎心疾患,特に急性心筋虚血の判定のために冠動脈造影を施行すべきである.

5.より深い話

心室細動再発予防が必要な場合,アミオダロン静注が一般に用いられる.ところがBrugada症候群の心室細動予防としてはβ刺激薬(イソプロテレノール)が用いられる.Brugada症候群ではV1~V2の特徴的な心電図波形で診断されるが,心筋梗塞で同様の心電図を呈することがある.急性虚血でのβ刺激薬使用は虚血を増悪し,不整脈発生を悪化させる可能性があり,心室細動蘇生後の波形のみでBrugada症候群と決めつけずに,冠動脈造影で虚血性心疾患がないかどうかの確認は必須である.

●処方例

  • アミオダロン(アンカロン®注)150 mg+5%ブドウ糖液:10分で点滴静注
  • Brugada症候群の心室細動予防(急性期):イソプレナリン(プロタノール®L)(保険適用外)ボーラス投与1〜2μg,持続点滴0.15μg/分または0.003〜0.006μg/kg/分

(2020/3/25公開)

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