画像診断Q&A

レジデントノート 2024年6月号掲載
【解答・解説】腰背部痛で受診した60歳代女性

ある1年目の研修医の診断

尿路結石や大動脈解離を疑って画像を見たのですが,それっぽくなさそうです.これだけ痛がっているので,原因があるはずなんですけど.

Answer

腰椎・腸骨の骨腫瘍性病変

  • A1:仙骨の左側や,左腸骨内に溶骨性変化が認められる(図1CD).
  • A2:同部の腫瘍性病変が疑われる.

解説

超高齢社会といわれる今日の日本において,悪性腫瘍は日常的に遭遇する疾患となっている.さまざまな治療法が発達したことで,悪性腫瘍の長期予後が改善し,その経過のなかで骨への転移もしばしば経験されるが,原発巣に気づいておらず,骨転移の症状(腰背部痛)が契機となって受診されることも実際ある.また転移性骨腫瘍と比較すると頻度は低いものの,原発性骨腫瘍や血液系の悪性腫瘍が疼痛の原因となる場合も存在する.今回はそのようなケースを紹介する.

骨への転移をきたしやすい悪性腫瘍として肺がん,乳がんや前立腺がんなどが有名ではあるが,さまざまな悪性腫瘍が骨に転移しうることから,原発巣によってその可能性を低く見積もることは推奨されない.転移性骨腫瘍によって骨が脆弱になり骨折をきたすことがあるほか,特に転移性骨腫瘍が脊髄や神経に直接浸潤した場合,不可逆的な神経障害をきたす可能性もあるため,救急外来などにおいても,見逃さないよう慎重な読影が求められる.症状は局所の疼痛のほか,神経障害による麻痺などの症状がしばしば認められる.治療はその原発巣によっても異なり,全身化学療法や放射線治療,手術などさまざまである.

CTでは骨内に軟部濃度を示す占拠性病変が認められること,骨皮質の断裂や,脆弱性による骨折が認められることなどが骨転移を示唆する所見である(図2).また脊椎では脊柱管に入り込むような軟部濃度がないかどうかも,基本的に全例必ず確認しておくとよい.本コーナーの主な読者である研修医の先生が救急などの場面でMRIを読影する機会は少ないかもしれないが,転移性骨腫瘍や脊柱管の評価にはCTよりも優れており,簡単でよいので勉強しておくとよいだろう.

本症例から学んでいただきたい内容は,「症状の原因は内臓に限らない」ということである.医師国家試験で扱われる内容やその疾患の多さから,どうしても症状の原因について臓器に注意が向かいがちである.強い腰背部痛の原因として致死的な大動脈瘤や大動脈解離をあげたり,頻度の高い尿路結石を考慮したりすることは決して間違いではない.しかし,そのうえで筋肉や骨にも目を向け,その症状の原因を考える必要性を,この症例から感じてほしい.

図1
図2
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プロフィール

山内哲司(Satoshi Yamauchi)
奈良県立医科大学 放射線診断・IVR 学講座,教育開発センター
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