画像診断Q&A

レジデントノート 2024年9月号掲載
【解答・解説】数時間で腹水が増加した70歳代女性

Answer

膀胱自然破裂

  • A1:初回のCT(図1A)では傍結腸溝にみられた少量腹水が,3時間後(図1B)には肝表やMorrison窩にもみられる.造影剤の腹腔内への漏出はみられない.膀胱壁は頂部で毛羽立ちがあり,右壁の造影効果が一部不連続である.
  • A2:造影CTの数時間後に非造影CTの撮影を行う.

解説

膀胱破裂は原因により外傷性破裂と自然破裂に分けられる.外傷性破裂は骨盤骨折や鈍的打撲,医原性などが原因となる.自然破裂は膀胱壁の損傷(放射線膀胱炎,長期尿道カテーテル留置など)や過進展(前立腺肥大症や神経因性膀胱などに起因する尿閉状態,大量飲酒後など)が原因となる.破裂の形式は腹腔内破裂と腹腔外破裂に分けられるが,自然破裂では解剖学的に脆弱な膀胱頂部が破綻し,腹腔内破裂になることが多い1)

膀胱破裂の症状には下腹部痛,血尿,排尿困難などがあるが,本症例は,放射線治療に起因する膀胱壁の脆弱性を背景に下腹部痛で発症し,初回のCTでは原因不明の腹水を認めた.症状の改善が乏しいため,3時間後に消化管穿孔や壊死を疑い,造影CTが撮影された.短時間での腹水の増加を認めたものの,腹部臓器に異常所見がみられないことから,膀胱破裂が疑われた.膀胱を注意深く観察すると,膀胱壁の造影効果の不連続性や膀胱前腔の腹水(非提示)が認められた.膀胱破裂の診断を確定するために,さらに3時間後に非造影CTを撮影し,膀胱内から腹腔内に造影剤が移行することを確認した(図2).なお,膀胱破裂の診断で参考になりうる検査所見として,尿の腹膜からの再吸収による血中UN,Cre値の上昇が知られており,偽性腎不全と呼ばれる.本症例では軽度の異常であったが,以前の値(UN 9.2 mg/dL,Cre 0.58 mg/dL,eGFR 75.9 mL/分/1.73 m2)と比較すると上昇がみられた.

膀胱破裂症例においてCTで膀胱壁自体の損傷が明らかになることは40%程度と報告されている2).腹腔内破裂の場合の主な所見は腹水で,膀胱周囲や骨盤内にとどまらず上腹部に及ぶことがある.ときに腹腔内遊離ガスを伴うことが報告されており,この場合は消化管穿孔との区別は難しい.造影CTの遅延相(120~180秒後)で造影剤の尿路外への漏出の証明は困難である.ところが,数時間後に追加撮影を行い,膀胱に排泄された造影剤の腹腔内漏出を証明することで診断につながる場合がある.急激に出現する腹水の原因として膀胱破裂があること,また本疾患を疑った際は,造影CT施行から数時間後の非造影CTの追加撮影が有用であることを知っていただきたく,本症例を提示した.

図1
図2
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引用文献

  1. 井上幸治:泌尿器外傷 膀胱損傷.泌尿器Care&Cure Uro-Lo,26:125-128,2021
  2. Kunichika H, et al:The diagnostic challenge of non-traumatic bladder rupture:a pictorial essay. Jpn J Radiol, 41:703-711, 2023(PMID:36729190)

プロフィール

岬 沙耶香(Sayaka Misaki)
滋賀医科大学 放射線科
井上明星(Akitoshi Inoue)
滋賀医科大学 放射線科
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