肺の容積減少があるように見えます.また,肺野全体にすりガラス影があるように見えます.
図1ではコンソリデーションや網状影などは明確ではなく,またBMIが高い患者であることからも本当に容積減少なのか不安を感じる研修医も多いと推測する.
全身性強皮症関連間質性肺疾患(systemic sclerosis with interstitial lung disease:SSc-ILD)は労作時呼吸困難,乾性咳嗽が初発症状であることもあるが,無症状のことも多い.本症例は肺野全体に陰影あり,ある程度進行していると考えるが,ILDが軽度であると,下葉背側のすりガラス影だけが病変であることもあり,胸部X線ではわかりにくいこともある.その際に聴診所見が重要となる.特に肺の下葉は基本的には背側にしか接していないため,前胸部からの聴診ではfine cracklesを聴き逃すことがあり,しっかり背部の聴診を行うことが重要である.
SSc-ILDを疑った際には胸部CTも追加で行うことが望ましい.軽度のすりガラス影も見逃さないように注意が必要である.本症例の胸部CTを図2に示す.
皮膚所見としては,顔面および肘,膝から末梢だけの皮膚硬化であれば限局皮膚硬化型(lcSSc),体幹部にも皮膚硬化があればびまん皮膚硬化型(dcSSc)という.dcSScにおいては進行が急であることが多い.自己抗体は抗トポイソメラーゼ1抗体(抗Topo-1抗体, 抗Scl-70抗体と同じ)では主にILDが問題となり,抗セントロメア抗体は肺高血圧症が問題となることが多い1).スクリーニングには必ず,皮膚の評価,上部消化管内視鏡,心臓超音波検査などを行い,胃食道逆流症や肺高血圧症の有無を評価する.末梢の血流の評価のためのキャピラロスコピーにて爪郭部を観察することも重要である.また,ILDに関しては肺胞上皮マーカー(KL-6,SP-Dなど)や動脈血ガス分析,精密肺機能検査にて評価を行うことが望ましい.
治療は抗炎症薬としてエンドキサン静注療法やミコフェノールモフェチル(MMF)を使用する.リツキシマブも保険適用がある.ステロイドについては,アメリカリウマチ学会のガイドラインでは使用しないことを強く推奨されている2).線維化が進行した際にはニンテダニブを使用し,線維化の進行を抑えることを目標とする.若年で線維化が進行する場合には早めに肺移植も念頭におく必要がある.
本症例は抗Topo-1抗体陽性の限局皮膚硬化型の全身性強皮症と診断された.胃食道逆流症や肺高血圧症はなく,エンドキサン静注療法を行った後にMMFを使用しているが,線維化の進行を認めたため,ニンテダニブを開始し,今後肺移植も念頭において経過をみている.