胸腹部CTで異常がありませんので,緊急で頭部MRIをオーダーします.
脊椎硬膜外血腫(spinal epidural hematoma:SEH)は年間10万人に0.1人程度に発症する稀な疾患で1),発症年齢は10歳代と50〜60歳代に2峰性のピークがある2).血腫は下位頸椎から上位頸椎レベル,下位胸椎から上部腰椎レベルの背側に好発するが3),これは同領域に発達した硬膜外静脈叢には弁がなく,急激な静脈圧上昇の影響を直接受け,破綻しやすいことが原因とされている1).外傷や腰椎穿刺後などに医原性に生じることがあるが,約半数は原因・誘因が明らかではない特発性である2).突然の背部痛で発症することが多く,症状からは大動脈解離との鑑別が重要である4).血腫の拡大とともに運動麻痺や知覚障害,膀胱直腸障害などが引き起こされる3).治療には保存療法あるいは外科的血腫除去術などが選択される.
CTでは急性期血腫が脊柱管内の高吸収な病変として描出されることがある.通常の腹部条件ではコントラストが不明瞭であることも多く,疑わしい場合はウィンドウ幅を狭めることで認識しやすくなる場合がある(図2拡大画像).矢状断像では紡錘状・三日月状の構造として血腫の広がりを把握できるが,詳細な評価にはMRIが有用である(図3).MRIの矢状断像および横断像により硬膜と血腫の位置関係が明瞭となり,硬膜外の血腫による硬膜を反映した線状の低信号が圧排・変位する.血腫の信号は発症時期によりさまざまであるが,急性期にはT1強調画像で脊髄と等信号・T2強調画像で高信号,亜急性期にはT1強調画像・T2強調画像ともに不均一な高信号を呈する5).腫瘍や硬膜外膿瘍などの他疾患との鑑別や血管奇形などの出血の原因検索には,造影MRIも有用とされる.SEHでは辺縁の造影効果を認めることが多く,内部の造影効果は他疾患や活動性出血の可能性を示唆する6).
突然の腰背部痛が主訴の場合,大動脈疾患や尿管結石などの腹部病変検索のため,腹部CTが撮影される機会が多いが,症状を説明しうる画像所見が見当たらない場合には,SEHを鑑別にあげ,脊柱管内まで丁寧に観察することで指摘できる場合がある.