どこに異常があるのかわかりません.CTを撮影して異常の有無を確認したいと思います.
本症例は縦隔リンパ節転移を伴った肺腺癌の症例である.胸部X線写真の読影に慣れていないとどこに異常があるのか発見するのが困難かもしれないが,本例は健診発見例であり,以下の所見は健診の場といえども見落としてはならないものである.まず右下肺野内側肺門下部に存在する直径約2 cmの円形結節であるが,既存の構造物を丁寧に選り分けて読影すれば異常に気づくことができる.右肺門下部は肺門から急峻な角度で下方に伸びてくる右肺動脈と別に,やや下方の中心陰影から約45°の角度で伸びてくる右下肺静脈の陰影で構成される.両者の血管径は肺門下部においては通常ほぼ同程度であるが,本例では右下肺静脈起始部が拡張して見える.これは胸部造影CTで確認すると長径22 mmの肺結節性病変が右下肺静脈腹側にほぼ接して存在しているためであることがわかった(図2).肺門陰影の読影はときに難しいが,左右差がないか丁寧に見比べるのもコツである.
また,本例の傍気管線は軽度肥厚しており,縦隔リンパ節腫大が疑われる.傍気管線の確認は,胸部単純 X 線写真読影の基本の1つである.傍気管線は,気管下部右壁が右主気管支にかけて正面像では線として投射されることで成立する陰影で,1~2 mmの薄い線状陰影になる.気管左縁は大動脈と食道に接するためシルエットアウトし傍気管線は形成されない.気管右壁~右主気管支右壁に接する右気管傍リンパ節の軽度の腫大があると傍気管線は肥厚し,さらに広範囲に大きなリンパ節腫大がある場合には傍気管線はシルエットアウトして消失する.本症例の胸部単純X線写真では,傍気管線は軽度肥厚している(図1).胸部造影CTでは複数の縦隔リンパ節腫大を認めた(図2).
本症例は胸部造影CTの結果から右肺下葉原発性肺癌の肺門縦隔転移を疑った.診断確定のため気管支鏡検査で超音波ガイド下経気管支縦隔リンパ節針生検(endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration:EBUS-TBNA)を施行し,肺腺癌と診断した.遠隔転移は認めなかったため化学放射線療法を施行し,胸部単純X線写真上の結節影および傍気管線の肥厚は消失した(図3).