両肺野に多発結節影を認めます.胸部CTを追加します.
胸部単純X線写真では両肺野に多発の小結節影を認める(図1➡).また,両下肺野にすりガラス影を認める.胸部CTでは,両肺野にびまん性の粒状影・小結節影が散在(図2➡)するほか,すりガラス影や浸潤影の混在を認める(図2◯,図3◯).
血液検査でKL-6のほかにβ-D glucanの上昇を認め,びまん性のすりガラス影と併せてニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jirovecii pneumonia:PCP)が鑑別にあがった.気管支鏡検査を施行し,気管支肺胞洗浄液からGrocott染色にてPneumocystis jiroveciiの菌体を認め,PCPと診断した.並行してHIV抗原抗体陽性が判明し,HIV感染者に合併したPCP(HIV-PCP)としてST合剤による治療を開始した.治療開始により解熱したが,PCPの治療期間が終了する直前に再度発熱し,採血で炎症反応の上昇を認めた.胸部CTを再検したところ,すりガラス影は消退傾向であったが,粒状影・小結節影に改善はみられなかった.採血でサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:CMV)抗原陽性が判明し,気管支肺胞洗浄液の保存検体よりPCR法にてCMV DNAが陽性であったことから,CMV肺炎(Cytomegalovirus pneumonia:CMVP)と診断した.バルガンシクロビルによる治療を追加し,経過は良好で胸部CT上の小結節影は消退した.以上から,HIV-PCPにCMVPが合併した症例と診断した.
CMV感染症はPCPと並ぶ重大な日和見感染症の1つである.PCPとCMVPのいずれも両側性のびまん性すりガラス影が代表的な画像所見であるが,粒状影・結節影を合併する頻度は大きく異なり,PCPが25.7%であることに対しCMVPが85.7%とする報告がある1).HIV感染者のCMV感染症で頻度が高い症状は網膜炎,腸炎,中枢神経病変で,肺炎は移植患者のCMV感染症などと比較すると頻度が低いといわれる2).一方でCD4陽性リンパ球数が50 /mm3を下回る場合はCMVPが重症化するおそれがあり,疑わしい画像所見や臨床経過を認めた際には必ず鑑別にあげて精査を行う必要がある.