どこに異常があるのかわかりません.身体所見で左鎖骨上窩リンパ節を触知するとありますが,画像と何か関係あるのでしょうか.
本例は縦隔・鎖骨上窩への多発リンパ節転移を主徴とした限局型小細胞肺がんの症例である.鎖骨上窩リンパ節の腫大は身体診察や胸部CT所見からわかる場合が多いが,本例のように著明に腫大した症例では,胸部単純X線写真でも指摘できる場合があり,読影の際には胸郭外にも病変がないか注意する必要がある.
まず左鎖骨上窩リンパ節の腫大に関しては,注意深く左右を比較することで異常に気づくことができるだろう.胸郭外の軟部陰影は普段意識して観察することが少ないため,異常に気づくことが難しいと感じる読者も多いと思われるが,こうした見慣れない部位においても左右の構造物の差異を丁寧に吟味して観察することが重要である.
傍気管線については本コーナーの過去の記事1)もご参照いただきたいが,気管下方右縁から右主気管支近位部がその外側の透過性の高い肺と接しており,そこを通過するX線束が正面像に対して垂直となるために,正面像で線として見える所見である.本例では傍気管線が消失(シルエットアウト)しており,気管や右主気管支と肺の間に構造物が存在することが示唆され,縦隔リンパ節腫大を疑うきっかけとなる.気管分岐角に関して,正常では垂線に対して右主気管支は約25°,左主気管支は約45°分岐しており,気管分岐角開大例では7番縦隔リンパ節の腫大や左心房の拡大を疑う必要がある.
本例は胸部造影CTの結果から,原発不明の肺がんの縦隔・鎖骨上窩リンパ節転移や,悪性リンパ腫を疑った(図2).確定診断のため最初に左鎖骨上窩リンパ節の針生検を行ったが悪性所見を認めず,次に縦隔リンパ節病変の超音波気管支鏡ガイド下針生検(endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration:EBUS-TBNA)を施行し,小細胞肺がんと診断した.肺野に原発巣の存在が判定できなかった点,遠隔転移を認めなかった点でTxN3M0(TNM分類第8版)と病期診断を行い,限局型小細胞肺がんの標準的治療に準じて化学放射線療法を施行し,図1A,図2でみられた所見は改善した(図1B).