本コーナーでは,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,などについて語っていただきます.2012年4月号では藤田保健衛生大学 総合救急内科の山中克郎先生にご登場いただき,名古屋第一赤十字病院 神経内科 後期研修医の安藤孝志先生にインタビュアーを務めていただきました.
安藤先生(以下敬称略):どこまで総合診療科がやるのかという境目に悩まれる総合診療の先生が多いのではないかと思います.山中先生は専門科と総合診療科の関係性はどのように考えられていますか.
山中先生(以下敬称略):私は救急室で働いているので,そこには初期研修医の先生はもちろん,3年目の後期研修医でこれから専門を勉強していくという人がたくさん集まります.藤田保健衛生大学へ来て5年目になります.以前,救急室で教えた先生たちが各医局に若手専門医としてたくさん入りました.気心が知れているので私が教えたことのある医師は喜んで救急室に来てくれて,「わかりました,先生もお困りでしょうね,うちで診ますよ」というような人間関係が生まれてきます.
そして,救急室ではいろいろな科の先生が混じり合うので,私にとってもすごく勉強になります.後期研修の3年目,4年目の先生が専門の知識を勉強して,それを私に教えてくれるのです.それはとてもよい刺激になります.
安藤:お互いに高め合って,お互いの苦手分野を補うかたちなのですね.
山中:でも,日頃から専門の先生の助けになりたいと考えて,雑用といわれるようなことも自分たちでやることが必要です.何でもかんでも専門の先生に押しつけたらそれは駄目だと思います.ギブアンドテイクの関係ですね.
専門医の先生にとっても,われわれ総合診療医にとっても,看護師,事務の方にとっても,共通の目的は患者さんを治してあげたいということです.専門の先生が「うちじゃありません」という場合では,「わかりました,うちで診ましょう」ということも必要です.弘前大学医学部附属病院総合診療部の加藤博之先生が講演会でおっしゃっていた川柳があります.「うちじゃない,各科がいえば出番です」.これこそが総合診療だと思います.
安藤:高齢者の誤嚥性肺炎やCPA蘇生後,中毒などばかりが集まって,総合診療のスタッフが疲弊してしまう病院もあると思いますが,そういう場合はどうしていけばよいでしょうか.やはり人間関係を築いていくことが大事なのでしょうか.
山中:寺沢秀一先生もよくおっしゃっていますが,急に変えようとしたら駄目ですね.かつての私がそうでした.アメリカで学んだ知識を全部出して,病院を改革しようなんて思っていたんです.急に変えようとしても絶対にうまくいかないですね.地道に若い人から教育することが必要です.ベテランの先生は今までのスタイルがありますので変えることは難しいです.私は,今も「あと5年ほど経って少し変わればいいかな,急に変わらなくてもいい」と思いながらやっています.
安藤:若い先生を教育して,その先生が成長して,理解のある医者が増えていくことですね.
山中:それが大事だと思います.
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