研修医へのフィードバックの場面.
PCFMネット(プライマリケア・家庭医療の見学実習・研修を受け入れる診療所医師のネットワーク)1)は,2000年に神奈川県の開業医 内山富士雄先生らが発起人となり,当時の日本プライマリ・ケア学会,家庭医療学研究会等に参加していた全国の診療所医師に呼びかけ,主に医学生の見学実習を受け入れる診療所のネットワークとしてスタートしました.同様の組織として,日本外来小児科学会 田原卓浩先生らの「医学生のための『小児プライマリ・ケア実習』プログラム」があります.
当時病院志向であった私にとって,TFCメーリングリスト2)等で「医局の耳学問」が自宅においても得られるようになったことに加え,全国の憧れていた先輩医師のネットワークができたことが,診療所医師というキャリアに大きく舵を切るきっかけになりました.
診療所教育は以前にも非公式的な形(極端な例は,開業医の息子が医学生時代に父親の診療を見学する等)では行なわれていたかと思いますが,公式なものとしては1986年にはじまった東京慈恵会医科大学と実地医家のための会(永井友二郎先生,鈴木荘一先生ら)による「家庭医実習」というのが有名です.当時の阿部正和学長の挨拶の記録3)が残っていますが,今でも心に響く内容ですので,紹介したいと思います.
「学生諸君は大学の医療しか知らない人が多いから,医療とはこういうものだと思うかもしれないが,日本には古くから開業医という,すぐれた医療の形態が受け継がれてきていて,私たちはこれを大事にしなければならないし,またこの開業医の医療のなかには本質的に大切なものがあるので,諸君はこれを学びとってきてほしい.医学については大学で教えるから,大学で学ぶことができないものを,先生方の診療のなかからくみ取ってきてほしい」
世界に目を向けると,手元の資料によれば,オランダでは6年次に10週間,米国では1~3カ月4),オーストラリアでは6~12カ月5),家庭医による卒前教育のカリキュラムがあるそうです.近年,業務に基づく学習(work-based learning)として地域基盤型学習(community-based learning/medical education)が注目されてきています.2010年のLancetには医学教育モデルは大学中心(science-based)から教育病院中心(problem-based)に移り,今後は地域の医療システム中心(system-based)になるだろうという論文6)が紹介されました.
卒後臨床研修で地域医療研修が必修化されたものの,日本での診療所教育はまだまだこれからです.将来は多くの医学生,研修医が診療所で教育を受ける時代がくることを夢見ています.このコーナーでは診療所実習・研修の経験談,Tips,世界のトレンド,FDなどPCFMネットの活動などを紹介していきたいと思います.